選択的夫婦別姓制度の導入を求める会長声明
2024年6月14日、日本弁護士連合会は、「誰もが改姓するかどうかを自ら決定して婚姻できるよう、選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議」を出した。
人の姓は、名と相まって、個人を識別する機能を有するとともに、その個人を表す人格の象徴であり、人格権の一部を構成するものである。それゆえ、姓を維持することは、自己のアイデンティティ確保のため、憲法上も十分に尊重されなければならないが、現行法制度上は、婚姻をする際、夫婦双方が姓を維持する選択肢は認められていない。姓の変更を望まない者同士の場合は、婚姻をしないか一方が自己のアイデンティティ喪失を伴う改姓をするかの選択を余儀なくされる。現在においても、婚姻する夫婦の大部分が夫の姓を選択しており、多くの女性が職業上も社会生活上も様々な不利益を被っている。
夫婦が同姓にならなければ婚姻できない、とすることは、憲法第13条の自己決定権として保障される「婚姻の自由」を不当に制限するものである。また、氏名は「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」(1988年2月16日最高裁判決)から、「氏名の変更を強制されない自由」もまた、人格権の重要な一内容として憲法第13条によって保障される。民法第750条は、婚姻に際し姓を変更したくない人の氏名の変更を強制されない自由を不当に制限するものであり、憲法第13条に反する。
また、夫婦別姓を希望する人は信条に反し夫婦同姓を選択しない限り婚姻できず、婚姻の法的効果も享受できない。このような差別的取扱いは合理的根拠に基づくものとは言えず、民法第750条は、憲法第14条の「法の下の平等」にも反する。
加えて、憲法第24条は婚姻における人格的自律権の尊重と両性の平等を定めている。これに対し、民法第750条は、婚姻に「両性の合意」以外の要件を不当に加重し、当事者の自律的な意思決定に不合理な制約を課すものである。そして、家父長的な家族観・婚姻観や男女の固定的な性別役割分担意識等がいまだに無言の圧力として働き、新たに婚姻する夫婦のうち約95%で女性が改姓している実態がある。民法第750条は、事実上、多くの女性に改姓を強制し、その姓の選択の機会を奪うものであり、憲法第24条にも反する。
国連女性差別撤廃委員会は、女子差別撤廃条約締結国である日本に対し、2003年7月、2009年8月及び2016年3月の三度にわたり、女性が婚姻前の姓を保持することを可能にする法整備を勧告している。国際人権(自由権)規約委員会は、2022年11月の総括所見で、民法第750条が実際にはしばしば女性に夫の姓を採用することを強いている、との懸念を表明した。世界各国の婚姻制度を見ても、夫婦同姓を法律で義務付けている国は、日本のほかには見当たらない。
1996年には、法制審議会が選択的夫婦別姓制度を導入する「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申したが、実現されないまま既に28年が経過しているが、国会での議論が進んでいない。
最高裁判所は、2015年12月16日の判決及び2021年6月23日の決定で民法第750条を合憲としたが、これらの判断は、同制度の導入を否定したものではなく、夫婦の姓に関する制度の在り方は「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」として、国会での議論を促したものである。
近時の世論や情勢においても、官民の各種調査において選択的夫婦別姓制度の導入に賛成する意見が高い割合を占め、多くの地方議会でも同制度の導入を求める意見書が採択されている。また、経済団体等からも、現状がビジネスの阻害要因になっていることなどを理由に、同様の要望が出されている。
婚姻前の姓の通称使用は拡大しているものの、通称使用を認めただけでは上記に挙げた憲法違反の点は根本的に解消されない。さらに、通称名と戸籍名の使い分けが必要となって混乱を招くことも多く、金融機関等との取引や公的機関・企業とのやり取り等に困難を抱えている。通称使用の拡大に安住することなく、選択的夫婦別姓制度を直ちに導入する必要がある。
当会は、これまで、2010年、2013年、2015年及び2021年の会長声明で、民法第750条の改正を求めてきたが、改めて、国会に対し、民法第750条を早期に改正し、選択的夫婦別姓制度を導入することを強く求める。
2024年(令和6年)10月29日
秋田弁護士会
会長 石 田 英 憲