商業登記規則等の一部を改正する省令における代表取締役等の住所非表示措置に関し、弁護士がオンラインで代表取締役等の住所情報を取得できる制度の創設を求める意見書

2024年10月29日 公開

第1 意見の趣旨
当会は、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)の施行に関して、弁護士が、オンラインで代表取締役等の住所情報を取得できる制度の創設を求める。

第2 意見の理由
1 はじめに
⑴ 本年4月16日、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号、以下「本省令」という。)が公布された。本省令は、一定の要件を満たした場合には、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」という。)の住所の一部について、申出により、登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないこととする措置を定めたものである。
⑵ しかし、商業登記における代表取締役等の住所は、①会社に事務所や営業所がない場合の普通裁判籍を決する基準としたり、本店所在地への送達が不能となった場合の送達場所としたりするものであるほか、②会社を悪用した詐欺商法を含む消費者被害等の救済にあたっての調査や被害回復のため、一定の場合に公開されることが必要である。
 これらはいずれも、裁判を受ける権利(憲法32条)との関連する重要な点であるところ、本省令では②について特段の手当てがなされていない。
2 会社を悪用した詐欺被害の多発と、直ちに代表取締役等の住所を把握する必要性
⑴ 近時、SNS型投資詐欺をはじめとする詐欺被害が社会問題化しているところ、会社名義の預金口座が被害金の振込先として悪用される事案が多数にのぼる。
 この場合、被害回復を図るためには会社及びその代表取締役等への損害賠償請求を行うところ、代表取締役等の住所を特定できなければ、裁判手続を行う際の障害となる。
 例えば、消滅時効が問題となる事件の場合は、即時に代表取締役等の住所を把握しなければ、権利の実現が困難となる。また、被害回復の確実性を確保するために、保全手続を行う必要がある場合においては、直ちに代表取締役等の住所を把握したいという実務上のニーズは非常に高い。
⑵ 加えて、詐欺等の犯罪行為を敢行する者は、規制のより緩いツールを悪用しているところ、代表取締役等の住所を表示しない措置を講じた会社を悪用して犯罪行為を敢行することは容易に想定される。その結果、詐欺被害がより一層増加することも懸念される。
⑶ そのため、代表取締役等の住所を直ちに把握できる制度は、詐欺被害の回復及び詐欺被害の事前防止の両面から必要性が大きい。
 そして、その制度としては、弁護士が、代表取締役等の住所情報をオンラインで取得できる制度(以下「オンライン制度」という)の創設がなされるべきである。
3 オンライン制度の必要性
⑴ オンライン制度としては、現状の登記情報提供サービスを利用して登記情報を閲覧することと同様の制度が想定される。
この制度であれば、弁護士は、必要なときは即時に、事務所から代表取締役等の住所情報を取得することが可能であり、前記2記載の必要性を満たす。
⑵ もっとも、代表取締役等の住所を把握する方法としては、本年4月22日、不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第32号)により、法律上の利害関係を有する者による商業登記簿の附属書類又は登記申請書の閲覧が、ウェブ会議システムを利用した非対面でも可能となったことから、かかる改正によって十分手当がなされているという指摘が想定される。
 確かに、かかる改正は、遠方の法務局に赴く手間と時間を省く点では有益である。
 しかし、その申請は、請求人が所定の方法により閲覧請求を行った後、登記官の審査が行われ、閲覧が認められた場合に、日程調整を行って閲覧をするという流れで行われるため、実際に閲覧ができるまでには一定の日数を要する。
 そのため、前記3⑴記載のような、直ちに代表取締役等の住所を把握する必要がある場合には、この改正だけでは不十分である。
⑶ また、弁護士による職務上請求制度の創設や、法務局が弁護士会照会に柔軟に対応するように体制を整えるといった方策も指摘されている。これらも有益なものと考えられる。
 しかし、いずれの制度も、その利用の前提として弁護士が事件を受任していることが求められる。また、いずれの制度も、そのやりとりは郵送で行われているため、回答を得られるまでに一定の時間を要する。さらに、弁護士会照会については、弁護士会内での審査も行われるため、一層時間を要する。
 そのため、前記3⑴記載のような、直ちに代表取締役等の住所を把握する必要がある場合には、職務上請求制度や弁護士会照会では対応しきれない。
⑷ これらの点に照らすと、代表取締役等の住所情報を直ちに取得できる制度の必要性は明らかであり、その必要性を満たす制度しては、オンライン制度が適切であることは明らかである。
4 オンライン制度が本省令の趣旨を没却しないこと
  弁護士がオンラインで代表取締役等の住所情報を取得できることは、本省令のプライバシーの保護の趣旨を損なうという懸念も考えられる。
  しかし、弁護士であれば、懲戒手続に裏付けられた職業倫理を備えているのであるから、目的外利用の禁止等の規制をかけることで、プライバシー保護の趣旨を損なわないようにすることが可能である。
5 結語
  以上より、当会は、弁護士が、オンラインで代表取締役等の住所情報を取得できる制度の創設を求める次第である。


            2024年(令和6年)10月29日
             秋田弁護士会
              会長 石 田 英 憲

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