罹災証明書交付申請において,被災住家の写真の提出を求める等の取扱いの是正を求める会長声明
1 秋田県内では,近年豪雨等による災害が続いており,住家に被害を受けた被災者も相当数に及んでいる。このような災害発生時に被災者がまず行うべきこととして,市町村に対する罹災証明書の申請がある。
現在の被災者支援制度では,住家の被害の程度に応じて受けられる支援(被災者生活再建支援金の支給,住宅の応急修理,応急仮設住宅への入居等)が規定されていることから,罹災証明書はこれらの被災者支援制度を利用するために欠かせないものである。
罹災証明書について定めた災害対策基本法90条の2には,「市町村長は,当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において,当該災害の被災者から申請があつたときは,遅滞なく,住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し,当該災害による被害の程度を証明する書面(第4項において「罹災証明書」という。)を交付しなければならない。」と規定されている。この規定には,被災住家の写真を申請の必要書類とする旨は記載されておらず,被災者が被害状況を証明するのではなく,市町村が住家の被害状況を調査して,遅滞なく罹災証明書を交付することが定められている。
2 当会災害対策委員会において秋田県内の自治体(市町村)のウェブサイトを調査したところ,罹災証明書の申請にあたり写真を必要書類としていない自治体がある一方,「被災状況が分かる写真」を罹災証明書申請の必要書類と記載している自治体も確認された。その中には,写真がなくても申請できる旨の記載がされていない例もあった。
この点につき,内閣府は,令和2年7月6日付事務連絡において,(自己判定方式という例外的取扱い以外の場合には)罹災証明書の「申請時に写真の添付は必須ではありませんので,念のため申し添えます。」と罹災証明書の申請に写真が不要であることを全国の市町村に周知しているところである。
3 近年,スマートフォンの普及によって写真を撮ることは容易にはなっているが,必ずしも全ての被災者がスマートフォンを使用できるものではなく,被災状況によっては写真を撮ることが困難な被災者が生じることは想像に難くない。罹災証明書の申請にあたって写真が必要との誤解が広がれば,写真がないので罹災証明書を申請できないと諦めてしまう被災者が出るおそれがある。このような事態は,被災住家の被害の程度を遅滞なく証明するという罹災証明書の趣旨に反している。
申請や調査の遅れは,被災者支援の遅れに直結する。自宅が被災したにもかかわらず,罹災証明書が未交付のため仮設住宅への入居ができないことも考えられるほか,各市町村における被災状況の把握を困難にし,復興支援に支障を来すおそれもある。
このような事態は,被災者支援を早期に開始し,被災者支援を全うするという災害対策基本法90条の2の趣旨を没却することになる。
罹災証明書の申請において被災住家の写真を必要書類としている問題は,全国的な喫緊の問題であり,日本弁護士連合会も令和5年9月15日に「罹災証明書交付申請において,被災住家の写真の提出を求める等の取扱いの是正を求める意見書」を発出しているところである。
4 罹災証明書は,被災者の生活再建の入口である。当会は,災害発生時に被災者支援を早期に開始し,被災者支援を全うし得るために,秋田県内の各市町村に対して,罹災証明書の申請に写真添付が必須ではないことを各市町村の住民に対して適切に周知するよう求めるものである。
2024年(令和6年)11月25日
秋田弁護士会
会長 石 田 英 憲