緊急事態時に国会議員の任期延長を可能とする憲法改正に反対する会長声明

2024年3月25日 公開

1 国会議員の任期延長に関する憲法改正案の概要
 現在、衆議院憲法審査会では、大規模災害や戦争等の緊急事態時においても国会の権能を維持するためとして、国会議員の任期延長を認める憲法改正が必要だとする論議がなされ、一部会派からは、概ね、外部からの武力攻撃や大規模災害などの緊急事態が発生し、広い地域で選挙の実施が70日を超えて困難なことが明らかな場合には、国会議員の任期を6か月延長できる(再延長も可)とする憲法改正案(以下「本件改憲案」)が示されている。今後、衆参両議院の憲法審査会における議論が進み、憲法改正の発議が国会でなされる可能性もある。
2 選挙権の重要性と選挙権行使が制限されること
 国会議員の任期が延長されれば、国民は、本来であれば衆議院の解散又は衆参両議院の議員の任期満了に伴い行使できた選挙権を、延長された期間中は行使できなくなり、選挙権の行使が制限されることになる。
 そもそも、憲法は、前文及び1条において主権が国民に存することを宣言し国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると定めるとともに、15条1項において公務員を選定し及びこれを罷免することは国民固有の権利であると定め、43条1項において国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め、45条及び46条において両議員の任期をそれぞれ定めている。
 このように、憲法は、国民に対し、主権者として、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を保障しており、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない(最高裁判所平成17年9月14日判決(在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件)同旨)。
3 内閣による濫用の危険性があること
 本件改憲案は、適正な選挙の実施が困難な場合であることの認定を内閣に委ね、内閣の認定と国会承認(3分の2以上)により議員の任期が延長される枠組みになっているが、内閣が国会の召集を希望するときにのみ国会議員の任期を延長するという恣意的な運用を可能とするものであり、国会における多数派が内閣を組織する議院内閣制のもと、国家権力による濫用の危険性がある。
4 参議院の緊急集会による対応が可能であること
 国会は二院制であり、参議院は3年ごとに半数が改選されるため(憲法46条)、衆議院の解散時や衆参両議院の議員の任期満了時においても、国会議員が全員不在となることはない。そして、憲法54条2項は、衆議院が解散中に緊急の必要があるときは内閣が参議院の緊急集会を求めることができると規定し、緊急事態時において暫定的に参議院のみで国会機能を維持する枠組みが定められている。この参議院の緊急集会は、衆議院解散時のみならず、衆議院議員の任期満了時にも開催できるという解釈が有力になっている。さらに、同条3項は、この参議院の緊急集会で採られた措置は臨時のもので、次の国会開会の後10日以内に衆議院の同意がない場合にはその効力を失うと定め、緊急事態時の措置に対する衆議院の関与の機会を保障している。
 このように、現行憲法においても、参議院の緊急集会によって緊急事態時でも国会権能を維持し得るのであるから、国会議員の任期延長を可能とする憲法改正の必要性はない。
5 法改正による対応が可能であること
 大規模災害等の緊急事態時への対応は、不在者投票や郵便投票制度の要件緩和等の公職選挙法改正等(日本弁護士連合会「大規模災害に備えるために公職選挙法の改正を求める意見書」(2017年12月22日付)参照)により、大規模災害等の緊急事態時であっても可及的速やかに選挙を実施することができる制度を創設することでも対応が可能である。
6 結論
 以上の次第で、緊急事態時に国会議員の任期の延長を認める本件改憲案は、国民の選挙権の行使を制限し、国家権力による濫用の危険性がある上、参議院の緊急集会や公職選挙法改正等で対応可能であって必要性を欠くことから、当会はこのような憲法改正に反対する。
                                   以上

2024(令和6)年3月25日
  秋田弁護士会
   会長  嵯  峨    宏

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