オンライン接見の法制度化を求める会長声明

2023年6月27日 公開

1 法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会(以下、「本部会」という。)では、刑事手続のIT化の議論が進んでいる。本部会では、被疑者・被告人との「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、留置施設等の施設相互を接続し、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(電子データ化された書類の授受を含む。以下「オンライン接見」という。)を刑事訴訟法39条1項の接見として位置付けることが検討されている。
2 身体の拘束を受けている被疑者・被告人にとって、刑事施設・留置施設が弁護人あるいは弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)の法律事務所から遠く離れている場合等を含め、身体拘束の当初から、弁護人等の援助を受けることは重要な権利である。憲法34条前段は、弁護人の援助を受ける権利を定め、これを受け刑訴法39条1項は、弁護人等が被疑者・被告人と立会人なく面会し、書類の授受をすることができるとする接見交通権を定めている。
 現代のIT化社会では、弁護人等が被疑者・被告人とビデオ会議システムを用いて対面したり、電子データ化された書類の授受を行うことも現実的な手段である。
 したがって、かかる現代の状況下では、オンライン接見も、刑訴法39条1項の接見交通権の行使に含まれるものと解するべきである。ゆえに、オンライン接見は、権利性を有する法律上の制度として、法制審議会を経て制定され、国家予算を投じて運営されなければならない。
3 特に、逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。
 現在、日本では逮捕段階における公的弁護制度が創設されていないため、被疑者は、最大で72時間も続く逮捕段階という重要な時期に、虚偽自白や冤罪の危険に曝されるという重大な防御上の不利益を被っている。
 したがって、逮捕段階においては、身体を拘束された被疑者が、要請をした直後、弁護人等から黙秘権の行使等の助言を受け、速やかに弁護人選任届の取り交わしを済ませる必要があり、地理的条件を問題としないオンライン接見は上記を実現する制度として極めて重要な意義を有する。
 また、被告人が起訴後に遠隔地所在の刑事施設に移動することもあり、こうした場合、地理的な要因によって起訴後の接見が困難になることがある。そのため、公判前整理手続や公判手続の遅延を招いたり、起訴後に十分な接見が受けられない事態が生じる。裁判員裁判や法定合議事件等の重大事件における起訴後の遠距離移送などがその例である。こうした場合も、オンライン接見を用いて、被疑者・被告人が継続的に弁護人等の援助を受けられるようにする必要が高い。
 このように、現行の捜査段階の接見や公判段階の接見は、いずれも全国的な課題を抱えており、相互の問題解決のためには、遠隔地に所在する留置施設等と本庁の刑事施設等を、相互に管轄の別なく接続する必要が極めて高い。
4 現に、当会では、下記のようなオンライン接見制度創設を基礎づける具体的事情がある。
 まず、秋田県内では、平成28年に大曲拘置支所が収容業務を停止し、平成30年に廃止された。そのため、大仙警察署管内の被疑者が起訴された場合、横手拘置支所に移送され、大曲支部管内の事務所に所在する弁護士が起訴後に遠距離接見を余儀なくされている。他方、横手支部管内の事務所に所属する弁護士が共犯者の分散留置などで大仙警察署に留置された被疑者の事件を受任するケースもある。そこで、大仙警察署と横手警察署・横手拘置所等を双方向で組織管轄の別なくオンライン接続することによって、大曲支部・横手支部双方の弁護士が県南管内の事件を相互に受任しやすくなり、かつ円滑な起訴後接見をすることが可能となる。
 また、県南の支部(大仙、横手)に限らず、県北の支部(能代、大館)においても、裁判員裁判事件、法定合議事件、困難事件が発生すると本庁の拘置所へ被告人が移送され、各支部の弁護士が遠距離接見を余儀なくされている。特に能代支部は、拘置支所がなく、通常事件であっても被告人は起訴後秋田刑務所に移送され、甚大な負担を被っている。いずれの場合も自動車で片道1時間ないし2時間程度(冬期はそれ以上)の負担を強いられ、被告人との綿密な意思疎通や公判前整理手続などに支障をきたしている。
 秋田地裁管内(いわゆる本庁)の事務所に所在する弁護士においても、休日や長期休暇の際の当番派遣はもとより、利益相反や共犯事件などで支部対応が困難な場合など、支部に赴く場合は少なくない。こうした場合に、遠隔地で逮捕・勾留された被疑者のため、本庁の警察署あるいは秋田刑務所(秋田市)から各支部の警察署へオンライン接見を用い、もって被疑者の弁護人依頼権を実質化する必要が極めて高い。
5 刑事手続のIT化の議論は、何よりも被疑者・被告人の人権保障を拡充するという観点で進められるべきである。当会は、法制審議会にて更に具体的な議論が尽くされ、オンライン接見が刑訴法39条1項の「接見」として実現されることを強く要望する。

2023年(令和5年)6月27日
  秋田弁護士会        
   会長  嵯 峨  宏   

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