改正少年法における特定少年の実名等の公表及び報道に関する会長声明
2021年5月21日、「少年法等の一部を改正する法律」(以下「本改正法」という。)が可決成立し、昨年4月1日に施行された。
本改正法は、18歳または19歳の少年を「特定少年」と定義したうえで、同法第68条は、特定少年のときに犯した事件について家庭裁判所の検察官送致決定(いわゆる逆送)を経て公判請求された場合に、少年の氏名・年齢・職業・住居・容ぼう等により当該事件の本人であることを推知することができるような報道(以下「推知報道」という。)の禁止を解除した。
そもそも少年法は、少年が成長発達途中にある未熟な存在であることから、その健全な育成を図ることを目的としている。改正前の少年法は、少年の更生や社会復帰を阻害するおそれが大きいことから、推知報道を一律に禁止していた。
他方で、本改正法では、18歳または19歳のときに罪を犯した場合に、家庭裁判所により検察官送致決定がなされ、検察官が公判請求をしたときに限り、推知報道の禁止が一部解除された。
しかしながら、本改正法の下においても、特定少年であれば無条件に推知報道が許されるようになったというわけではない。特定少年も少年であり、依然として少年法が目的とする少年の健全育成の趣旨は妥当する。
実名報道がされれば、当該少年の社会復帰や更生の決定的な妨げになること、ひいては、結果として再犯可能性を高めることになりかねず、社会にとっても不利益に働く面があることは否めない。特に、地方などの狭い地域社会においては、実名報道がなされれば、少年の地元での社会復帰は極めて困難であり、少年は家族や地域から孤立化し、さらなる非行・犯罪を誘発しかねない。これでは少年法が目的とする少年の健全育成の趣旨が没却されることになる。
特に、インターネット上の記事は、一度報道がなされてしまうと半永久的に情報が消えることはない。最初に情報を発信した報道機関が仮に記事を削除したとしても、一度発信された記事は瞬く間に転載されることから、事後的にインターネット上から当該情報を削除することは不可能である。
本改正法は、少年の推知報道の一律禁止を、特定少年について起訴された場合に限り解除したに過ぎず、検察庁から実名が公表された場合であっても、報道機関は推知報道をしなければならないというものではない。
本改正法における衆参両院の法務委員会における附帯決議でも、特定少年のとき犯した事件広報にあたっては、インターネットでの掲載により情報が半永久的に閲覧可能となることを踏まえ、推知報道については少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないとされている。
以上の少年法の趣旨、推知報道による弊害なども踏まえ、当会としては各機関に対し以下のとおり要請する。
1 検察庁においては、罪名だけに着目して少年の実名を公表することはせず、事案の内容、少年の情況などを考慮し、慎重な対応をとることを求める。
2 報道機関においては、少年法による少年の健全育成の理念を十分に理解し、推知報道が少年やその周囲に与える影響を考慮して、特定少年の事件が公判請求されたとしても、特定少年の推知報道については、抑制的な姿勢で判断することを求める。
2023年(令和5年)1月16日
秋田弁護士会
会 長 松 本 和 人