改めて裁判所速記官の養成再開を求める会長声明

2022年10月26日 公開

1 裁判所速記官制度は、裁判記録の正確性や公平性を担保するとともに、迅速な裁判に資するものであり、裁判所法60条の2第1項で「各裁判所に裁判所速記官を置く」と規定されている。
 ところが、最高裁判所は、1998年度より新たな速記官の養成を停止しているため、秋田弁護士会においては、2013(平成25)年12月19日付けで最高裁判所への要請書を提出し、2018(平成30)年8月29日付け会長声明を発出するなどして、速やかに裁判所速記官の養成を再開されるよう継続的に求めてきたものである。
 しかしながら、最高裁判所は、今日に至るまで裁判所速記官の養成を再開することはなく、1996年時点で全国に825名配置されていた速記官は、2022(令和4)年4月1日時点で151名にまで減少した。秋田地方裁判所管内においては、わずか1名のみである。
2 最高裁判所は、裁判所速記官による速記録に代わるものとして、法廷で録音された録音媒体を委託を受けた民間業者が反訳する「録音反訳」を導入している。
 しかし、「録音反訳」では、万が一書記官による録音機器の操作の誤りや機械の不具合により録音ができていないことが判明した場合、法廷での証言や供述の再現はもはや不可能となってしまう。
 また、調書の完成に相当の日数を要するため迅速な裁判の実現には資さない。
 加えて、反訳を行う者が法廷に立ち会っていないため、録音媒体から発言者の発言を正しく確認することができず、正確な反訳が困難となることもあり得る。更に、委託業者による情報漏えいの事例が報告されており、プライバシー保護が十分に図られないおそれをはらんでいる。
 これに対して、裁判所速記官による速記の場合は、速記官が法廷に立ち会っており、速記録が作成できないという事態はない。
 また、裁判所速記官の作成に係る速記録は、電子化した速記機械と反訳ソフトウエアの開発により、法廷での質問と応答を直ちに文字化し、即日に速記録を作成することが技術的に可能である。そして、裁判所速記官は、法廷での尋問に立ち会っているため、不明瞭な発言があれば、直ちに裁判長に告げて確認を求めることができ、証言や供述内容が不明瞭なまま放置されることはなく、誤字脱字、聞き間違えや言葉の取り違えなどの危険も少ない。
 そのため、裁判所速記官による速記録は、作成の確実性、迅速性、正確性の点でいずれも優れている。
3 裁判員裁判では、連日的開廷での審理・評議が求められ、法廷での証拠調べが重視されるため、法廷での証人の証言や被告人の供述が正確かつ迅速に速記録として作成される必要性が特に高い。この点、現在での裁判員裁判では、速記録が作成されておらず、証人尋問等のビデオ録画とコンピューターの音声認識を組み合わせ、一定の単語を手がかりに、証言や供述の各場面を検索できる音声認識システムが導入されている。しかし、このシステムによる音声認識の精度は低く、文字化が極めて不正確であるため、誤変換が多い、解読ができないなどといった問題が生じている。しかも、現実的に裁判員が音声認識システムを利用して音声や映像を見直す時間的な余裕はない。
 裁判員裁判において、審理の正確性を期し、充実した評議を実現するためには、法廷での証人の証言や被告人の供述の内容が即時に確認できることが必要不可欠であり、裁判所速記官による正確性の担保された速記録を速やかに作成する必要性が特に高いというべきである。
4 公正で客観的な記録の存在は、国民の公正・迅速な裁判を受ける権利を保障するため不可欠な前提である。裁判の適正や裁判所の記録作成に対する国民の信頼を確保するためには、厳しい研修を受け、裁判の実情に精通した裁判所速記官による速記録の作成が必要不可欠である。録音反訳や音声認識システムによる文字化では不十分である。
 よって、当会は、最高裁判所において、速やかに裁判所速記官の養成を再開されるよう改めて強く求めるとともに、国に対し、それに必要な予算措置を講じるよう併せて強く求めるものである。

2022(令和4)年10月26日
  秋田弁護士会 
    会 長  松 本 和 人

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