「新たな訴訟手続」の新設に反対する会長声明

2021年11月26日 公開

第1 声明の趣旨
 当会は、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会で審議されている「新たな訴訟手続」の新設に反対する。
第2 声明の理由
1 現在、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会において、双方当事者が新たな訴訟手続の申述(又は同意)をして裁判所が決定をしたときは、そこから6か月(裁判所はそれより短い期間の指定もできる)で結審する「新たな訴訟手続」が提案され、現在、この案が審議されている。
2 しかし、「新たな訴訟手続」には、以下のような問題がある。
 第1に、審理期間の制限により、当事者は期間内に収まる主張や立証しかできず、事実上、主張や立証が制限される。そのため、憲法32条が定める公正かつ適正な裁判を受ける権利を侵害するおそれがある。わが国の民事訴訟手続は、当事者双方の攻撃防御方法が尽くされ、裁判に熟したときに結審して判決を出すものであるが(民事訴訟法第243条)、事前に相手方の主張や証拠を把握できていない訴訟の初期の段階において同意をとり、期間が来れば結審する制度は、裁判に熟してないにもかかわらず判決が下されかねない危惧がある。
 第2に、主張や立証が事実上制限されることで、十分な審理ができず、判決の簡略化と相俟って、審理や判決が粗雑(ラフジャスティス)になり、当事者の納得を得られない判決や誤った判決が下されることも危惧され、ひいては民事訴訟制度に対する信頼をも損ないかねない。
 第3に、弁護士が訴訟代理人に付いていない本人訴訟であっても、「新たな訴訟手続」の利用を認めることも大きな問題である。訴訟手続に関して十分な知識、経験がない本人にとっては、審理期間が6か月に制限される「新たな訴訟手続」は、一見して、魅力的に感じられるかもしれない。しかし、主張や立証が事実上制限される「新たな訴訟手続」の選択や遂行を適切に行うためには、訴訟手続について高度の知識、経験が求められる。知識、経験のない本人に「新たな訴訟手続」を認めると、予想外のリスクが現実化して、本人の権利が危険に晒されかねない。
 第4に、裁判の適正と迅速化や裁判期間の予測可能性を高めることは、重要な課題であるが、そのためには、裁判官の増員など司法基盤の整備、当事者が裁判に必要な情報や証拠を収集することができる手続を拡充するなどの環境整備が必要である。審理期間だけを制限して迅速化を図ることは、当事者の主張立証の権利を制限し、拙速で粗雑な判決が濫造されかねない。
3 中間試案に対する意見公募手続(パブリックコメント)の結果によると、「新たな訴訟手続」について、新設をしないとする案に賛成する意見が消費者団体、労働団体、各地の弁護士会などから出され、最も多数であった。
 法制審議会は、この事実を重く受け止めるべきである。
4 以上より、当会は、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会で審議されている「新たな訴訟手続」の新設に反対する。

2021年(令和3年)11月26日
 秋田弁護士会
  会 長  山 本 隆 弘

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