改めて少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明
1 2018年(平成30年)6月,民法の成年年齢を18歳に引き下げる法改正がなされ,現在,法務省法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会においては,少年法の適用年齢をも18歳未満に引き下げることを前提とした審議が進められている。当会は,2015年(平成27年)7月29日に,少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明を発しているが,上記の審議経過を踏まえ,今般,改めて少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明を発するものである。
2 そもそも法律の適用年齢は,それぞれの法律の趣旨や目的等が考慮されて決定されるべきものである。少年法の適用年齢の引下げの是非についても,単に国法上の統一を図るなどという観点ではなく,少年の健全な育成を期し,可塑性に富む少年の改善更生や再犯防止を図るという少年法の趣旨・目的等から検討されなければならない。
この点,現行の少年法制は,未だ心身の発達が十分でなく環境その他外部的条件の影響を受けやすい少年に対し,直ちに刑罰を科すのではなく保護・教育的な処遇を図ることが少年の改善更生や再犯防止に資する,との考え方に依拠している。すなわち,少年事件については,原則として全件を家庭裁判所に送致し,少年の非行に至った動機・原因,生育歴,性格,生活環境などを明らかにする社会調査を家庭裁判所調査官が,非行等に影響を及ぼした資質上及び環境上問題となる事情を明らかにする資質鑑別を少年鑑別所技官がそれぞれ行い,少年が非行に至った原因を解明したうえで,少年にとって最も適切な処遇を選択する仕組みが採用されている。また,これらの過程において,家庭裁判所調査官が少年に様々な教育的な働き掛けを行うこともあり,少年の改善更生にとって重要かつ有効な役割を担っている。
そして,少年による非行は,発生件数だけでなく少年人口比で見ても年々減少しているのであって,現行の少年法制に基づく処遇は,少年の改善更生や再犯防止に有効に機能しているというべきである。これらの少年法制に基づく処遇の有用性は,18歳及び19歳の少年に対する事件でも何ら異なるところはなく,これまで現行少年法制に基づく処遇により18歳及び19歳の少年の改善更生や再犯防止が問題なく図られてきた。
3 このような現状を踏まえ,法制審議会少年法・刑事法部会では,少年法の適用年齢を引き下げた場合に現行少年法制下で実施されていた改善更生策や再犯防止策が実施できなくなる不利益を回避するため,罪を犯した18歳及び19歳で検察官が起訴猶予相当と判断した者に対し,家庭裁判所や少年鑑別所を関与させ,改善更生に必要な処遇を行う「若年者に対する新たな処分」なる制度の創設を検討している。
しかしながら,「若年者に対する新たな処分」においては,少年院送致に類似した施設収容処分も検討されているところ,成人の刑事裁判手続を前提とする以上,処分の重さは行為責任の範囲を超えてはならないと解さざるを得ず,罰金よりも軽い処分である起訴猶予処分を受けた者に対してなぜ施設収容をすることができるのかという理論上の重大な問題が生じることとなる。
この点,少年法適用年齢の引下げを提案しておきながら,そこから生じる問題点を解消しようとして,現行の少年法類似の制度を導入しようとするのは矛盾であり,一貫性がない。結局,有効に機能する現行の少年法制のままで何ら不都合はなく,少年法適用年齢を引き下げる必要性を見出すことはできない。
4 以上の理由から,当会は,改めて少年法適用年齢の引下げに反対する。
2019年(令和元年)6月25日
秋田弁護士会
会長 西 野 大 輔