憲法記念日を迎えるにあたって、市民に憲法9条改正問題を考えることを呼びかける会長声明

2019年5月7日 公開

1947年(昭和22年)5月3日に日本国憲法が施行されてから72年を迎えました。

日本国憲法は、個人の権利及び自由を保障するために国家権力を憲法によって制限するという立憲主義を基本理念として、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義を基本原理として制定されました。特に、恒久平和主義に関しては、第二次世界大戦において多くの国民が犠牲となったことの反省から、再び戦争の惨禍を繰り返さないために、前文において「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有すること」を確認し、9条第1項及び第2項において武力不行使、戦力不保持、交戦権否認を規定しています。このような日本国憲法は、施行後70年以上にわたり、多くの国民から支持されてきました。

ところで、自由民主党の憲法改正推進本部は、2018年(平成30年)3月25日の党大会において、憲法9条第1項及び第2項の規定を残しつつ、新たに9条の2を創設し、自衛隊を憲法に規定する旨の改憲案(以下「9条改憲案」といいます。)を含む4つの改憲の「条文イメージ(たたき台素案)」を提示しました。自由民主党は、同年5月3日には、同案について今後、衆参両院の憲法審査会で議論を深め、憲法改正原案を策定し、憲法改正の発議を目指すことを声明として発表しました。

しかし、9条改憲案には、以下のように検討すべき課題があります。

まず、9条の2第1項では「必要な自衛の措置」としての武力行使の限界を憲法に定めておらず、その判断は内閣及び国会に委ねられます。また、9条の2第2項では「自衛隊の行動は法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する」とされ、具体的な内容は憲法ではなく法律に委ねられます。これらの規定からすると、自衛隊に対して憲法上の具体的な統制が及ばず、自衛隊に対する実効性のある統制を困難にさせ、立憲主義に反するおそれがあります。

次に、9条の2第1項では、「前条(9条)の規定は、(中略)必要な自衛の措置をとることを妨げず」と定められ、その「必要な自衛の措置」の内容は限定されていません。したがって、「必要な自衛の措置」として、存立危機事態だけではなく、それ以外の場面でも集団的自衛権の行使が容認されるという解釈も可能となります。つまり、9条改憲案は、政府がこれまで維持してきた専守防衛政策、海外での武力行使禁止など、9条が果たしてきた憲法規範としての機能を減退・喪失させるものであり、恒久平和主義の意義を大きく後退させるおそれがあります。

当会は、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から、9条改憲案に以上のような検討課題があることを市民に訴えるとともに、憲法9条改正問題について一人でも多くの市民が考え、議論を深めるよう呼びかけます。

 

2019年(令和元年)5月3日

秋田弁護士会     

会長  西 野 大 輔


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