いわゆる「谷間世代」の貸与金返還期限の猶予を求める会長声明
2017年(平成29年)4月19日、司法修習生に対して修習給付金を支給すること等を内容とする裁判所法の一部改正に関する法律が成立し、同年11月1日から施行された。これを受けて、同月から司法修習を開始した第71期司法修習生に対する修習給付金の支給が始まっている。
その一方で、新第65期(2011年11月採用)から第70期(2016年11月採用)までの司法修習生であった者(いわゆる「谷間世代」)については、その修習期間中に国庫から給費や給付金などの名目で一定額の生活資金を受けることができず、その代わりに必要に応じてその貸与を受けるという「貸与制」が採用されていた。その結果、同じ内容の修習を遂行した谷間世代の経済的負担が、それ以外の修習終了者に比して著しく重くなるという不公平・不平等な事態となっている。
そもそも司法制度は、三権の一翼として法の支配を社会の隅々まで行き渡らせ市民の権利を実現するために不可欠なインフラであり、その司法制度を担う法曹を養成するのは国の責任である。そのため、国は現行の司法修習制度を日本国憲法施行と同時に発足させ運営してきた。この制度の下、司法修習生は、修習専念義務(兼職の禁止)、守秘義務等の職務上の義務を負いながら、裁判官・検察官・弁護士になる法律家の卵として、将来の進路にかかわらず、全ての分野の法曹実務を現場で実習し、法曹三者全ての倫理と技術を習得してきた。司法修習制度が、修習専念義務を課したうえで国の責任で法曹を養成する制度であることから、修習に専念できるに足る生活保障を行うため国が司法修習生に対し給費を支給してきたのであった。
給費制は2011年(平成23年)に、司法修習生の大幅な増加、司法制度改革を実現するための財政負担等の理由によりいったん廃止されたものの、わずか6年で政策を変更し修習給付金制度を設けることとなったのも、法曹を養成するのが国の責任であることが再認識されたからに他ならない。
このような政策の変更による負担を特定の法曹のみが負担することは著しく公平に反する。谷間世代の司法修習生には修習資金の貸与を受けた者が少なくなく、多額の負担を負った状態で法曹となっており、かかる経済的負担は、法曹としての活動に対する制約要因となりかねない。特に、弁護士としての公益的・社会的な活動に対し消極的になりかねないといった悪影響が生じている懸念がある。
谷間世代の法曹が、弁護士に限っても全国の弁護士総数約4万人のうち約1万1000人をも占めることを考えると、貸与制のもとで司法修習を終了した新第65期から第70期の司法修習終了者に対して、少なくとも今回創設された修習給付金と同等の経済的支援がなされるよう、さらなる法改正等の対応が必要であって、谷間世代の救済については引き続き検討がなされていくべき重要な政治課題というべきである。
しかるに、現在のところ、何らの抜本的な救済策も示されないまま、新第65期司法修習終了者の初回の貸与金返還期限が本年7月25日に迫っている。
そこで、当会は、政策変更による救済策が引き続き検討されるように政府に対して、まずは緊急の策として、「谷間世代」の貸与金返還について、一律に返還期限を猶予する措置を執るよう求める。
2018年(平成30年)5月28日
秋田弁護士会
会長 赤 坂 薫