秋田県の最低賃金額の大幅な引き上げを求める会長声明

2018年5月28日 公開

1 現在,秋田県の地域別最低賃金は,1時間738円(2017年10月1日効力発生)で全国最下位の県よりわずか1円高いだけであり,全国加重平均である1時間848円を大きく下回っている。また,本県の非正規労働者の割合は33,3%(平成29年度労働条件等実態調査結果)であるが,非正規労働者が家計を支える役割を担っている場合も多く,いわゆるワーキングプアと呼ばれる貧困層が広がり続けている。
こうした社会の現実を直視して,最低賃金制度をセーフティーネットとして実効的に機能させるためには,早急に最低賃金額の引き上げが実現されなければならない。
2 ここで,1日8時間,月22日間働いた場合,秋田県の現在の最低賃金額である1時間あたり738円をもとに計算すると,1か月の賃金額は12万9888円となり,年間155万8656円となる。
 しかし,この賃金額は,単身者世帯にとってすら十分生活していけるだけの水準が確保されているとは到底言い難い。
 なお,政府は,2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において,2020年までに最低賃金を「全国最低800円,全国平均1000円」にするという目標を明記し,2016年6月2日に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」にも,最低賃金を毎年3%程度引き上げ,将来は全国加重平均1000円程度にする方針を示しているが,この方針によれば,最低賃金額は1000円に達するのは2023年となる。
 しかし,仮にこの目標に到達したとしても,全国最低水準の時給800円であるならば,1日8時間,月22日間の労働では月額14万8000円であり,年間168万9600円に過ぎない。
したがって,政府が掲げる目標を達成したとしても,ワーキングプアのラインとされる年収約200万円(時給換算で約950円)に遠く及ばない。
これでは,労働者が健康で文化的な生活を営んだ上で,最低限の資産を形成することなどできず,労働者の生活の安定及び労働力の質的向上を図ることなど到底望めない。
3 また,最低賃金の地域間格差が依然として大きいことも問題である。
秋田県の現在の最低賃金額である738円と最も高額である東京都の958円とを比べると,その間に220円もの開きがある(2016年における格差は212円であったことから,むしろ地域間格差は拡大している。)。
 このような最低賃金の地域間格差は,賃金の高い都市部での就労を求めて,本県からの有為な人材の流出を引き起こすとともに,労働力不足による企業倒産を招きうる。
特に,本県は人口減少率及び高齢化率も共にこの数年でも連続で全国最高水準となっているなど,人口減少及び高齢化の問題はより深刻である。
本県が2015年3月にまとめた「秋田の人口問題レポート」によれば,本県は,2040年には,全産業合計で約11万人の労働力不足に陥るとの推測がなされている。ただでさえ,少子高齢化によって労働力不足が深刻である本県において,賃金格差による労働力の流出は絶対に防がなければならない。
賃金の地域間格差は若者の流出を促し,さらなる人口減少・高齢化という悪循環をもたらす。この悪循環は,本県における経済の停滞をもたらし,医療・介護といった社会インフラの崩壊にもつながりかねない。  
したがって,賃金の地域間格差の解消は本県において喫緊の課題であることは明らかである。
4 最低賃金の引き上げの効果としては,労働者の生活の向上の他に,離職率を下げ,新規採用・訓練のコストを減らし,生産性の向上に繋がること,さらに,賃金が消費に回り地域的及び全国的に経済成長を刺激することが挙げられる。
5 他方,経営者側は,政府が策定した「賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者支援事業」を活用し設備投資を行い,労働生産性が高い職場環境を整えることで人件費を抑えながら利益率を上げ,その余剰を賃金に充てることで最低賃金を引き上げることは十分可能なはずであり,最大限その努力が尽くされるべきである。経営者が労働生産性の高い職場環境を整備することは,経費削減の観点から経営者にとってもメリットが大きいはずである。
6 以上のことを踏まえて,当会は,秋田地方最低賃金審議会に対し,本県の地域経済の健全な発展を促すとともに,労働者の健康で文化的な生活の確保を実現するため,本県の地域別最低賃金の大幅な引上げを答申することを求めるものである。


2018年(平成30年)5月28日
 秋田弁護士会
   会長 赤 坂  薫

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