参議院国家安全保障特別委員会において特定秘密の保護に関する法律案の強行採決が行われたことに対する会長声明

2013年12月6日 公開

昨日,参議院国家安全保障特別委員会において,特定秘密の保護に関する法律案(以下「法案」という。)の強行採決が行われ,参議院本会議に法案が送られた。

 

いうまでもなく民主主義国家においては,主権者である国民に対し,国政に関するあらゆる情報ができるだけ正確に提供されることが不可欠である。国の安全保障のあり方も主権者である国民が決めるべきことであるから,同様に情報提供されることが不可欠である。

やむを得ず例外的に秘密にせざるを得ない情報があっても,秘密とされる情報は,明確な基準により限定されるべきものである。

 

法案に対しては,当会だけではなく,国民各層からも,

① 特定秘密の対象が広範であいまいであることから秘密とすべきではない情報も恣意的に特定秘密と指定され,官僚に不都合な情報隠しなどに濫用されるおそれがあること,

② 特定秘密の指定・解除などが適正に行われているかを行政機関から独立した立場でチェックする第三者機関の設置が先送りされていること,

③ 60年という長期間の秘密指定が可能となることから,主権者である国民により検証がなされる時点では既に関係者が生存していないという問題があること,

④ 処罰範囲があまりにも広範であるため,官僚の情報隠しを追及しようと呼びかけただけでも煽動罪の嫌疑で逮捕され,厳罰を科せられかねないことから,国民の知る権利が脅かされ,国民の正当な政府批判までもが萎縮するおそれがあること,

など様々な問題点が指摘されており,法案の問題点が国民に浸透するにつれ,国民からの反対が増えてきている。

 

政府与党が法案の問題点を解消しないまま強行採決を繰り返し,法案の成立を急ぐ理由も理解できない。参議院で慎重審議を行えば次々と問題点が明らかになり法案成立が遠のくことをおそれたからではないかとの疑い,また,いったん法案が成立してしまえば国民が法案の問題性を忘れてしまうことを期待しているのかもしれないとの疑いを禁じ得ない。

しかし,特定秘密保護法制を設けることは,この夏の参議院選挙では与党の公約として明示されておらず,選挙の争点にもなっていなかったことから,国民の間で十分に議論をし,意見表明をする時間を十分にとる必要があったものである。

 

民主主義においては多数決原理が働くが,多数決が必ずしも正しいとは限らないことから,多数決により決定する前提には,十分に議論を尽くし,少数意見にも耳を傾けることが不可欠であり,少数意見が正当であれば,多数意見を修正されることもあり得る。

それにもかかわらず,政府与党が,質疑を途中で打ち切り,数を頼みにして,法案の問題点を解消しないまま,参議院国家安全保障特別委員会での採決を強行したことは,熟議を不可欠の前提とする民主主義の観点から,極めて問題があり,遺憾である。

 

当会は,本法案を参議院本会議で十分に審議し,当会が指摘する問題点が解消できない場合は,これを廃案とすることを求める。

仮に,本法案が本会議で拙速に審議・可決されて成立した場合には,これに抗議するとともに,引き続き,特定秘密の保護に関する法律の改廃により,これまで当会が指摘をしてきた問題点が解消されるよう求めていく所存である。

 

2013年(平成25年)12月6日
 秋田弁護士会
   会長 江 野   栄

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