「ゲートキーパー立法」に反対する会長声明
2006年1月25日 公開
政府は、2005年(平成17年)11月17日FATF(国際的なテロ資金対策に係る取り組みである「金融活動作業部会」)勧告実施のための法律の整備に関して、金融情報機関を金融庁から警察庁に移管する方針を決定した。
FATF勧告は、マネーロンダリング及びテロ資金対策を目的として、金融機関のみならず弁護士等の専門職を不動産の売買等一定の取引に関して「門番」と位置づけ、「疑わしい取引」を金融情報機関に報告する義務を課そうとするものである。
弁護士に対しても依頼者の疑わしい取引に関する情報を政府に報告する義務を課すFATF勧告については、諸外国の弁護士及び弁護士会が、弁護士制度の根幹を揺るがすものとして、その実施に反対しており、FATFの重要な加盟国であるアメリカやカナダでは勧告による立法はなされていないし、ベルギーやポーランドでは違憲訴訟が係属している。
弁護士の守秘義務は、依頼者の人権と法的利益を擁護するため不可欠な制度であり、長い歴史の中で獲得した弁護士職の基本原理である。弁護士に対するゲートキーパー制度は、この弁護士の守秘義務に抵触する虞があるもので容認できない。すなわち、「疑い」があるだけで弁護士が依頼者の秘密を捜査当局に「密告」しなければならないとしたら、弁護士と依頼者との信頼関係は破壊されることになり、依頼者が安心してすべての事実を弁護士に打ち明けられないとすれば、弁護士が依頼者に対して法律を遵守するための適切な助言をすることもできない。これは、マネーロンダリング及びテロ資金対策の目的に反する結果となるものである。
さらに、金融情報機関が警察庁とされ、警察庁に対し報告を義務づける制度は、弁護士や弁護士会の存立基盤である国家権力からの独立を危うくし、また、弁護士が依頼者の秘密を捜査機関に密告する捜査機関の手先という目で一般市民から見られることにすらなりかねず、弁護士、弁護士会に対する国民の信頼を根底から覆すものである。
以上のとおり、弁護士に対し、「疑わしい取引」について警察庁への報告義務を課すことは、弁護士の国家権力からの独立性という弁護士制度の存続基盤を危うくし、弁護士と依頼者との信頼関係を損なうものである。
よって、当会は弁護士に「疑わしい取引」の報告義務を課す「ゲートキーパー立法」に強く反対する。
2006年(平成18年)1月25日
秋田弁護士会
会長 面 山 恭 子