共謀罪の新設に反対する会長声明

2005年10月25日 公開
1 2003年の第156通常国会及び先に閉会した第162通常国会と2度にわたり廃案となった「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するために刑法の一部を改正する法律案」(以下,「本法案」という)が,今国会に提出され,10月14日には衆院法務委員会で審議入りしました。
 本法案には,いわゆる「共謀罪」の新設が盛り込まれています。

2 同法案の共謀罪とは,長期4年以上の刑が定められている犯罪行為について、「団体の活動として」「当該行為を実行するための組織により行なわれるものの遂行を共謀した者」を処罰するものです。
 この共謀罪が成立するためには,犯罪を遂行しようとした意思を合致させる謀議,あるいは謀議の結果としての合意があれば足りるとされ,犯罪の実行行為の着手どころか,準備行為や合意を推進する行為も要求されていません。しかも,現刑法は予備罪ですら,強盗などの重罪に限られているのに,共謀罪の前提となる犯罪は,このような重罪に限定されず,窃盗,傷害,背任,公職選挙法違反等など600以上にも及ぶ広汎なものとされています。これは,原則として客観的,外形的な実行行為があって初めて犯罪として成立するというわが国刑法の大原則に反するものです。

3 しかも,共謀罪は,意思形成段階を処罰の対象とすることに加え,「共謀」という概念が非常に不明確なため,意思形成のための発言や相談,会議などが,その犯罪成立の対象となりますが,これによって,思想信条の自由,表現の自由,集会・結社の自由などの基本的人権が大きな脅威を受けることになります。

4 また,共謀罪は,具体的な法益侵害行為ではなく,会話,電話,メールなどあらゆるコミュニケ-ションの内容が犯罪を構成することになるため,捜査において,その内容を察知するため盗聴(電話傍受)が常態化し,また合意を立証するため自白偏重をもたらす危険性など,適正手続に重大な脅威を及ぼすおそれがあります。

5 さらに,本法案は,「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」に基づき,その国内法化を図るためとされています。しかし,本法案は,同条約でいう「性質上越境的なもの」で「組織的な犯罪集団が関与するもの」として対象団体の限定がなされていないため,いわゆる「越境的組織犯罪集団」とは無関係な市民団体,労働組合,企業,政党等の活動もその対象とされかねないもので,同条約の趣旨ともかけ離れています。

6 以上のとおり,共謀罪の新設はわが国刑法の基本原則に反し,基本的人権の重大な脅威となるものですから,本法案の成立には強く反対するものです。

2005年10月25日
 秋田弁護士会
   会長 面 山 恭 子

会長声明・決議・意見書 一覧【秋田弁護士会】
スマートフォン版サイトを覧る