少年法等「改正」法案に反対する会長声明
2005年7月7日 公開
政府は,2005年3月1日,「少年法等の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」という。)を閣議決定し,同日付けで今国会に提出した。
本改正案は,①触法少年,ぐ犯少年に対する警察の調査権限の付与,②少年院送致年齢の下限の撤廃,③保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する施設収容処分を規定するが,いずれも少年処遇の実態に合致しないものであって,重大な問題をはらんでいる。したがって,当会は,国選付添人制度の拡充の点を除き,本改正案に対し反対の意思を表明する。
1.触法少年・ぐ犯少年に対する警察の調査権限の付与
本改正案は,触法事件一般について警察の調査権限を付与し,一定の強制調査を可能とする内容となっている。しかし,近年の調査により,14歳未満の触法少年の多くが被虐待経験を含む複雑な生育歴を有していることが明らかとなっており,このような少年の調査としては,従来より聴取に携わっていた児童相談所の福祉的・教育的見地をも加味した調査こそが相応しいものである。またその任務にあたり,家庭裁判所の調査・審判を経ることが望ましいと判断する場合には,家庭裁判所に審判を求めることも可能であって,現行の制度の下で,真相解明が阻害されたという実態が存在しない以上,現行の枠組みを変える必要は全くない。
そもそも,触法少年に対する聴取においては,その未熟さ,被暗示性,迎合性など少年の心理的特性を理解した上で福祉的な配慮を加えた聴取を行っていくことが肝要であって,そのような経験を有しない警察の調査は自白の強要等不適切な取り調べに繋がる危険があり,かえって真相解明を困難にしかねない。仮に真相解明には不十分とするなら,児童相談所の物的・人的体制の強化をこそ行うべきものである。
また,本改正案は,犯罪にあたらない,ぐ犯少年の調査権限を警察に付与する内容となっているが,ぐ犯少年である疑いがある者に対してまで警察が介入することとなれば,従前の警察補導の実態からして,多くの少年が警察の関与のもとに置かれることになり,教育的・福祉的対応がなされないまま,問題の深刻化を招いてしまう危険性がある。
2.少年院送致年齢の下限の撤廃
本改正案は,少年院送致の年齢制限を撤廃し,14歳未満の者であっても少年院に送ることを可能とする内容となっている。従来,14歳未満の少年については少年院での集団的処遇ではなく,発達過程にある少年の特性を踏まえた個別的福祉的な処遇を行ってきた。
これに対し,今回の少年院送致年齢の下限の撤廃は,このような個別的福祉的な処遇の必要な14歳未満の少年の特性を全く無視しており,承服しがたいものである。14歳未満の少年を隔離施設に収容することは,少年の社会復帰に資するところはなく,仮に重大な犯行であっても,少年の立ち直りには14歳未満の少年の未熟さにふさわしい福祉的な処遇が必要であるのに,そのような機会を失わせることになりかねない。また,このような改正を支える立法事実も何ら示されていない。
3.保護観察の遵守事項違反を理由とする施設収容処分
本改正案は,保護観察に付するに際して決められた遵守事項違反を理由として,新たに少年院への収容を可能にする内容となっている。しかし,そもそも現行法上,遵守事項を守らないことが新たな「ぐ犯事由」といえる場合には,ぐ犯通告制度によって収容が可能であり,本改正案のような仕組みを新たに作る必要はない。
また,保護観察においては,保護司と少年との信頼関係の構築が不可欠であり,ときに遵守事項違反を犯したとしても,その事実をも率直に話せる関係を築くことが必要となる。しかし,「ぐ犯事由」といえない遵守事項違反によっても施設収容処分が下されることとなれば,少年が自らの悩みなどを率直に保護司に語ることが困難となり,その関係が表面的なものとなりかねず,概ね良い成果を誇ってきた我が国の保護観察制度の瓦解を招いてしまいかねない。また,このような枠組みを作ることは,柔軟な遵守事項を定めることを困難にする可能性もあり,少年の犯した犯行や性格に応じた柔軟な遵守事項を定めることによって少年の更生を図るという福祉的なアプローチを困難としてしまう。
さらに,それ自体「ぐ犯事由」といえない行為により施設収容を決めるとすれば,憲法が禁止する「二重処罰」にあたるおそれがあり,許されない。
以上に述べた指摘は,少年司法制度の根本理念に反し,少年に対する福祉的対応を大きく後退させるものであって,強く反対するものである。
2005年7月7日
秋田弁護士会
会長 面 山 恭 子