「秋田県民の消費生活の安定及び向上に関する条例」改正に関する意見書
2004年12月15日 公開
2004(平成16)年12月15日
秋田県知事 寺 田 典 城 様
秋田県議会議長 鈴 木 洋 一 様
秋田弁護士会
会 長 湊 貴 美 男
「秋田県民の消費生活の安定及び向上に関する条例」改正に関する意見書
近年の消費者被害の増加及び複雑化の現状,及び,2004(平成16)年5月26日改正された消費者基本法が地方消費者行政の強化を強く要請していることに鑑み,当会は,秋田県に対し,「秋田県民の消費生活の安定及び向上に関する条例」(以下,「県条例」という)を以下のように改正するよう要請する。
第1 意見の趣旨
1 条例の目的について
目的規定に,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差があるという実態認識を記載するとともに,「消費者の権利擁護及び消費者の自立の支援」を目的として明記すること
2 消費者の権利の明記
消費者の権利として,次の諸権利を県条例に盛り込むこと
① 提供される商品役務に関し安全を確保される権利
② 消費者行動に必要な情報を得る権利
③ 商品役務について適切な選択を行う権利
④ 消費活動による被害の救済を受ける権利
⑤ 消費者教育を受ける権利
⑥ 消費者政策に意見を反映させる権利
⑦ 公正な取引条件及び取引方法を提供される権利
⑧ 不招請勧誘を受けない権利
3 消費者取引の適正化について
不公正取引の禁止規定を実効あらしめるために違反行為に対する立入調査,勧告,公表等の規定を整備すること
4 苦情処理,紛争処理について
消費者の苦情に対し,適切かつ迅速に必要な助言ないしあっせんその他の措置を行う旨の規定を整備し実効性のあるものとするとともに,裁判外紛争処理機関の制度を整備し県民が利用しやすいものとすること
5 消費者教育・情報提供について
消費者教育・情報提供についての規定を整備し,これらの活動の計画的推進体制の確立を図ること
第2 意見の理由
1 条例の目的について
消費者基本法(以下,「基本法」という。)は,目的(1条)につき,「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ」「消費者の権利の尊重及びその自立の支援」という基本理念に基づき消費者政策を推進することである,と規定している。
近年,製造物責任法,消費者契約法,特定商取引法等消費者関連法規が整備されつつあるが,消費者被害は増える一方であることは県生活センターの統計からも明らかである。このような消費者被害の根本原因が,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力に構造的格差があることによるという実態認識にたち,消費者基本法にこのような規定が設けられたものであり,県条例においても,条例の解釈・運用の指針を示すために,消費者政策を展開する前提認識と目的について,端的に規定される必要がある。
なお,基本法から「保護」の文字が削除されたが,このことにより消費者の自立と自己責任だけが強調されてはならない。同法は前記実態認識の下で消費者政策の積極的推進を求めているのであり,条例の目的も「消費者の権利擁護及び自立支援」にあることが明記されるべきである。
2 消費者の権利の明記
基本法には,消費者政策の基本理念の規定(2条)の中に消費者の権利が規定されているが,県条例(2条)ではこれらのうちの一部しか規定がない。県条例改正においては,基本法に規定された権利を含む以下の8つの権利が明記されるべきである。
① 提供される商品役務に関し安全を確保される権利
② 消費者行動に必要な情報を得る権利
③ 商品役務について適切な選択を行う権利
④ 消費活動による被害の救済を受ける権利
⑤ 消費者教育を受ける権利
⑥ 消費者政策に意見を反映させる権利
⑦ 公正な取引条件及び取引方法を提供される権利
⑧ 不招請勧誘を受けない権利
事業者と消費者の構造的格差がますます拡大し,消費者被害が激増している現代社会の実態を踏まえれば,基本法に規定されている上記①ないし⑥の他,⑦公正な取引条件及び取引方法を提供される権利,⑧不招請勧誘を受けない権利も加えるべきである。
すなわち,公正な取引条件と取引方法が提供されなければ,いかに情報が提供されても適切な選択は実現できない。消費者に必要な情報を提供し消費者が適切な選択を行える状況を確保するためには,その前提として,公正な取引条件と取引方法が提供される権利が保障されることが不可欠である。
さらに,各種悪徳商法や,先物取引,証券取引,外国為替証拠金取引,デリバティブ取引などの投資取引被害が後を絶たないが,その大きな原因が,事業者からの電話,ファックス,訪問,ダイレクトメール,Eメールなどによって,消費者の事前の承諾が無いにもかかわらず事業者が一方的に勧誘をする,いわゆる不招請勧誘が放置されていることにある。これら不招請勧誘は,それ自体消費者の生活の平穏を侵害するだけでなく,消費者の冷静な判断を阻害し,これによって財産的損害に止まらず精神的にも多大の損害を与えるものである。消費者の権利をいわば水際で守るためには,消費者には不招請勧誘を受けない権利があることを確認し,これを実現する必要がある。近時被害が多発し社会問題となっていた外国為替証拠金取引については,平成16年12月1日改正金融先物取引法が成立し,取引を望まない顧客への一方的な電話や訪問による勧誘を禁じ,不招請勧誘禁止ルールの立法化がなされたが,外国為替証拠金取引以外の投資取引,悪徳商法一般に広く認められるべきものである。
3 消費者取引の適正化について
消費者取引の適正化のために,条例で不公正取引を禁止することが有効であることはいうまでもない。県条例では8条から15条の3がこれを規定しているが,違反行為に対する立入調査,勧告,公表等の規定が十分に活用されていたとは言い難い。これらの規定を整備し,より実効性あるものとすべきである。
4 苦情相談・紛争処理について
基本法において,都道府県は,高度の専門性や広域性を配慮した苦情処理のあっせんを行うことや,多様な苦情に柔軟かつ弾力的に対応すべきこと(19条1項),専門的知見に基づく処理ができるよう人材の確保及び資質の向上に努めること(同条2項),専門的知見に基づき紛争の解決に努めること(同条3項)とされている。個々の被害が少額で急速かつ広域的な被害となりやすい消費者問題の特性に照らせば,行政機関において紛争処理を行うことが必要かつ有効である。
県条例には,知事は,消費者等からの相談又は苦情を適切かつ迅速に処理するために必要な体制を整備するよう努めるものとするとの規定があるが(24条4項),さらに,紛争が専門的知見に基づいて処理されるよう必要な施策(人材確保及び研修体制の強化等)をとるべきことが明示されるべきである。
また,県条例には,「あっせんその他必要な措置」(25条)の規定がおかれ,秋田県消費者苦情処理委員会があっせんまたは調停を行うこととなっているが,現実に有効に活用された例は見られない。消費者問題の特性に照らすと,事業者と消費者の格差を補いつつ実質的に公正な解決を目指す行政型紛争解決機関の整備が必要と言うべきであり,消費者苦情処理委員会のあっせんまたは調停の制度について,消費者に申立権を付与する等,積極的に利用できるよう制度の見直しがなされるべきである。
5 消費者教育・情報提供について
近年,若者やお年寄りを狙った悪徳商法や,オレオレ詐欺,架空請求など短期間に大量の被害者を生み出す消費者事件,未成年者も巻き込んだインターネット・携帯電話トラブルが頻発し,多大な被害をもたらしているが,こうした被害を防止するためには,できるだけ多くの消費者に消費者教育と情報を得る機会を提供することがきわめて重要である。このような趣旨から,基本法においても,消費者教育・情報提供を受けることを消費者の権利として規定している。県条例においては16条に規定があるが,これをさらに充実させ消費者教育・情報提供活動をさらに実効あるものとする必要がある。
また,こうした消費者教育・情報提供活動は,県単独で行うよりも,県・市町村・消費者団体・事業者・事業者団体・弁護士会等関係諸団体との連携・調整のもとに,計画的に推進されることが望ましい。したがって,県において,消費者教育・情報提供活動の計画的推進体制がとれるように県条例の規定を整備すべきである。
以 上