「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に強く抗議し,廃止を求める会長声明

2017年6月30日 公開

1 2016年(平成28年)12月15日,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下,「カジノ解禁推進法」という。)が成立した。政府は2017年(平成29年)4月4日,本部長を安倍総理大臣とし全閣僚を委員とするIR推進本部を立ち上げ,安倍総理は「世界最高水準のカジノ規制を導入する」と表明し,同月6日以降,IR推進会議(有識者会議)において,実施法の制定に向けて議論を進めている。
2 当会は,2014年(平成26年)7月1日,「「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明」を発表し,カジノが民間賭博でありこれを合法化する正当な理由がないこと,ギャンブル依存症被害が拡大し,多重債務者の増加や青少年への悪影響の懸念があること,経済活性化には繋がらずむしろ地域経済を衰退させていく可能性が高いことを指摘し,反対を表明していた。
 しかし,同法案は,多数の問題点が指摘されていたにも関わらず,衆議院内閣委員会では約6時間しか審議せず採決され,参議院内閣委員会でも修正案について数十分の審議で可決されるなど,ずさんな審議で成立したものと言わざるを得ない。
3 現在,実施法制定の前提となるギャンブル依存症対策として,パチンコの規制が検討されている。しかし,これはカジノ解禁の議論がなくても対応すべきことであり,これまで曖昧な運用で放置されているパチンコの賭博性について正面から指摘したうえで規制を強化することが必要であったのであって,パチンコ規制を進めることによってカジノを解禁することを正当化できるわけではない。ギャンブル依存症対策を推し進めるのであれば,ギャンブルに接する機会を減らすのが最大の対策であり,民間賭博であるカジノを解禁するためにギャンブル依存症対策を行うというのは本末転倒である。
 また,特定複合観光施設区域の整備の推進が観光や地域経済の振興に寄与し財政の改善に資するというカジノ解禁推進法の前提自体,十分な根拠があるかどうかの議論はまったく不十分である。カジノの運営には相当のノウハウの蓄積が必要と見られ,海外のカジノ資本の関与なしには困難と想定されるが,このことは日本の資産を海外に移転させることを意味するのであり,カジノの収益が日本の社会に還元される保障があるとはいいがたい。仮に,特定複合観光施設区域の整備による建設需要等の経済効果があるとしても,リゾート法により各地に大規模な施設が作られたものの,負の遺産として地域社会に多大な負担を残した事実からも明らかなように,その後の維持管理コストも含めて判断しなければ十分とはいえない。他方で,ギャンブル依存症患者が増えることによる負の影響,青少年への悪影響,マネーロンダリングのおそれ,カジノ関連 事業への反社会的勢力の関与,地域の疲弊,周辺治安の悪化といった,カジノを解禁することによる弊害があることは,アメリカや韓国等カジノを解禁している他の地域でも示されているのであり,経済効果を考えるにはこのような負の影響も含めて総合的に考えなければならないが,政府,国会は,これらの点についてはほとんど審議しないまま推進法を成立させてしまっている状況である。
 さらに,そもそも民間業者が営利目的で賭博営業を行うことを正当化する根拠は,日本の法体系の下では見出しがたいと思われる。この点でも,十分な審議がなされたとは到底いえないものである。
 世論調査でも,カジノ賭博合法化に反対が圧倒的多数であり,新聞各紙もカジノ賭博合法化について消極的な社説を掲げている状況である。このような中で,カジノ賭博解禁を進めることは許されないというべきである。
4 以上,当会はカジノ解禁推進法の成立に強く抗議するとともに,その廃止を求める。

2017年(平成29年)6月30日
 秋田弁護士会
   会長 三 浦 広 久

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