司法修習生への新しい給付制度を設ける裁判所法改正についての会長声明
本年4月19日、司法修習生への新しい給付金制度を設ける「裁判所法の一部を改正する法律」が成立した。これにより、2017年(平成29年)11月1日以降に採用される司法修習生に対して、一定の給付金(基本給付金、住居給付金、移転給付金)が支給されることとなった。
我が国では、終戦直後から、司法制度が社会に法の支配を行き渡らせ、市民の権利を実現するための重要なインフラであることを踏まえ、かかる司法制度を担う法曹の卵である司法修習生に対し、国が給費を支給し養成してきた(給費制)。ところが、2011年(平成23年)11月からは、給費の支給をやめ、修習期間中に費用が必要な修習生に対して、修習資金を貸与する制度(貸与制)に変更された。そのため司法修習生は、修習専念義務が課され、公務員などと同様に副業が原則禁じられており、司法修習地への配属も全国に及んでいるにも関わらず、収入のない状況で修習を受けなければならないばかりか、大学・法科大学院での奨学金債務を負っている場合には、これに加え貸与金として数百万円の債務を負わざるを得ない状況になるなど、重い経済的負担を強いられており、近年法曹を目指す者が激減している一因となっていた。
法曹志望者の大幅な減少は、法曹養成制度が危機的な状況にあることを意味するだけでなく、三権の一翼を担う司法の脆弱化をもたらすものとして、国家的危機といっても過言ではなく、当会はこれまでも給費制の復活を求めてきた。この度、公費負担により司法修習を行うものとする本法が成立したことについては高く評価しているところである。
他方で、以下に述べるような問題が依然残っており、今後引き続き問題の解決が図られるべきである。
1つめは、本法に基づき司法修習生に支給される基本給付金の額は、月額13万5000円とされており、住居給付金についても上限が3万5000円とされていることである。司法修習においては経済的不安なく修習に専念し法曹としての能力を身につけさせることが必要であるところ、司法修習生に修習専念義務が課されており、副業が原則禁じられていることからすると、その額については十分とはいえず、今後も引き続き給付金の増額を検討する必要がある。
また、給与としては位置づけられていないため、裁判所共済組合への加入も認められないことになるが、この点についても改められるべきである。
2つめは、貸与制の下、2011年(平成23年)から2016年(平成28年)の間に司法修習生となった者に対し何らの措置もなされていないことである。これらの司法修習生と、2010年(平成22年)以前に司法修習生となった者及び本法による給付を受ける司法修習生との間で、司法修習の意義・実態は何も異ならないにもかかわらず、受ける経済的支援だけが大きく異なり著しい不公平が生じることになる。
そして、2011年(平成23年)に司法修習生となり貸与制を利用した者は、早くも2018年(平成30年)7月から貸与金の返還を迫られ、経済的負担が顕在化することになるため、貸与制世代に対する世代間不公平の是正措置の整備は早急に取り組むべき切迫した問題である。
当会は、今後ともこのような不十分な点の解消に向けた活動を引き続き進めていく所存である。
2017年(平成29年)6月30日
秋田弁護士会
会長 三 浦 広 久