民法の成年年齢の引下げに反対する会長声明
2017年8月30日 公開
1 選挙年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げる「公職選挙法等の一部を改正する法律」が昨年6月19日から施行された。これを受けて、政府において、民法の成年年齢を20歳から18歳へ引き下げることが議論されている。
2 しかし、法律による年齢区分は、それぞれの法律の立法目的や法益ごとに個別具体的に検討されるべきである。選挙年齢の引下げは、民主主義の観点から18、19歳の若年者に選挙に参加する権利を付与するものである。これに対し、民法の成年年齢引下げは、若年者に私法上の行為能力を付与するにふさわしい判断能力があるかどうかという問題であって、同一に考えなければならない必然はない。民法の成年年齢引下げについては、若年者に私法上の行為能力を付与するにふさわしい行為能力があるかどうかという点を、正面から議論する必要がある。このような議論を看過して、国法上の統一性という安易な理由で成年年齢を引き下げられることがあってはならない。
3 民法の成年年齢を引き下げた場合に最も大きな影響を及ぼすものとして、若年者が未成年者取消権(民法第5条2項)を喪失するという問題がある。民法第5条2項は、未成年者が単独で行った法律行為については、未成年者であることのみを理由に、これを取り消すことができると定めている。この未成年者取消権は、未成年者が悪質な業者との間で違法もしくは不当な契約を締結するリスクを回避するための絶大な効果を有しており、悪質な業者に対する大きな抑止力として機能している。
一方で、若年者に対する消費者被害を回避するためには、消費者全般を保護する法改正にとどまらず、より一層の消費者教育の拡充が重要である。しかし、我が国ではそのような施策の実施は不十分と言わざるを得ない状況にあり、若年者の消費者被害についての理解は十分とは言い難い。
このように、未成年者取消権の果たしている効果や機能、若年者の消費者被害防止施策の現状に照らしても、現段階で民法の成年年齢引下げを断行すれば、未成年者取消権の喪失によって若年者の消費者被害が増加する危険性は極めて大きい。
4 また、民法の成年年齢が引き下げられれば、養育費の支払終期が事実上18歳まで早められることが強く懸念される。さらには、私法の基本法である民法の成年年齢引下げは、未成年者を保護するために定められた他の各法律の改正につながることも懸念される。
したがって、民法の成年年齢引下げにあたっては、他の制度や法律にも影響が及ぶであろうことも見据えた上で、慎重な検討がなされるべきである。そのためには、民法のみならず未成年者保護を図る各法律の立法目的や法益を踏まえ、成年年齢引下げによる影響や問題点を広く把握し、若年者と若年者を取り巻く多くの関係者らの意見を十分に聴いた上で、さまざまな角度から議論がなされる必要がある。
ところが、現状では、民法の成年年齢引下げについて国民的な議論がなされているとは到底いえない状況である。
5 以上のとおり、当会は、現時点において、民法の成年年齢を18歳に引き下げることに反対する。
2017年(平成29年)8月30日
秋田弁護士会
会長 三浦 広久