出入国管理及び難民認定法改正案に反対する会長声明

2021年4月23日 公開

 政府は,本年2月19日,出入国管理及び難民認定法改正案(以下「本改正案」という。) を国会へ提出した。
 本改正案は,新たに「収容に代わる監理措置制度」の創設,難民申請者に対する送還停止の効力の一部解除,退去強制令書の発付を受けた者(被退去強制者)に本邦からの退去等を命じ,これに応じなかった者に対して刑事罰を科する退去命令制度の創設などを内容とするものである。
 しかし,本改正案には多くの重大な問題点があるので,当会はその成立に強く反対する。
 日本の入管制度では,収容期間の制限がなく,司法審査手続きが取られていないことから,多数の非正規滞在者が長期にわたり収容され続けている実情があり,国内外から多くの批判を浴び続けてきた。2007 年以降でも収容施設内での死亡者は16人に上り,最近では,名古屋出入国在留管理局において,収容されていたスリランカ国籍の女性が死亡する事態が発生している。
 このような収容の長期化を防止するためには,収容の要件や収容期間の上限を定めた上で,司法審査を導入するなどの抜本的な改正を行うべきである。しかし,本改正案では抜本改正が見送られ,かえって被収容者の身体の自由を侵害する危険性の高い改正内容となっている。
 たとえば,新設される「収容に代わる監理措置制度」は,退去強制令状により収容されている外国人等について,入管当局が選定した監理人に指導・監督等を行わせる代わりにその収容を解く制度である。しかし,収容を解くかどうかの判断は,司法審査を経ずに出入国在留管理庁が判断することとなっており,その判断基準も明確ではないことから,恣意的な運用がされるおそれがあり,かねてより指摘されている長期収容の根本的問題は何ら解決されない。
 また,難民認定申請手続中は強制送還されないという,いわゆる送還停止効につき、3回目以降の申請者には例外を設けることとされている。しかし,これでは、本来難民認定されるべき者を迫害地域に送還することになりかねず,「ノン・ルフールマン原則」(迫害を受けるおそれのある国への追放・送還を禁じる国際法上の原則)に反するおそれがある。
 さらに刑事罰を伴う退去命令制度の創設は,難民と認定されるために司法手続を利用する 被退去強制者にも適用される危険があり,こうした者の裁判を受ける権利を侵害する可能性がある。
 身体の自由は,人が尊厳をもって生きていくために最も重要な基本的人権の一つである。日本が批准する自由権規約第9条も,「すべての者は,身体の自由及び安全についての権利を有する。」としており,本改正案がかかる国際人権基準に照らし不合理であることは明らかである。
 よって,当会は,本改正案に強く反対する。

2021年(令和3年)4月23日
 秋田弁護士会
  会長 山 本 隆 弘

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