地域司法の充実に向けた決意を表明するとともに、大曲簡易裁判所につき裁判官常駐の堅持を求める決議

2021年2月15日 公開

第1 決議の趣旨

当会は、裁判所支部管内の地域住民に対する司法サービスについて、その一層の充実を図るべく、引き続き努力する決意を表明するとともに、最高裁判所に対し、大曲簡易裁判所に裁判官1名を再配置し、裁判官の常駐を堅持するよう求める。

第2 決議の理由

1 地域司法の充実の重要性

⑴ 裁判を受ける権利の保障(憲法第32条)は、市民が司法を通じて権利を実現するために重要なものである。すなわち、司法は、具体的な事件における裁判手続を契機として、法の正しい解釈・適用を通じて、事件の適正な解決や被害を受けた者の権利の救済を行い、あるいは公正な手続の下で適正かつ迅速に刑罰権を実現する役割を担っている。そして、市民による司法の利用を通じて、社会の法秩序の維持・形成を図ることが期待されている。

また、裁判を受ける権利について、裁判所本庁管内の住民と支部管内の住民とで差異はない。

⑵ 2001年(平成13年)の司法制度改革審議会の意見書においても、21世紀の司法制度の姿として、国民にとって、より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とすること、そのためには、国民が利用者として容易に司法へアクセスできるようにすることなどが提言されている。

この司法機能の充実の要請は、裁判を受ける権利に実効性を与えるものであり、裁判所本庁管内の住民か支部管内の住民かによって、司法の利用のしやすさ、司法へのアクセスのしやすさなどの司法サービスに格差があってはならない。

⑶ 秋田県は面積が広く、公共交通機関も充実しておらず、県民の高齢化率及び人口減少率は全国でもトップクラスである。

その一方で、近年の事件数をみると、裁判所本庁管内や支部管内においても、刑事通常第一審事件は特段の増減傾向は見られないが、民事事件(通常訴訟、調停を含む。)は若干減少傾向にあるものの、家事審判事件は増加しているのであって、概観しても減少傾向にあるとまでは言えない。

このような状況からすれば、今後も県内全体の司法機能の充実を図っていく意義は極めて大きい。

⑷ 当会では、司法機能充実の観点から、裁判所支部管内で弁護士がいない又は乏しい地域に弁護士を定着させるための支援を行ってきた(なお、現在は県内に弁護士ゼロ・ワン地域は存在しない。)。また、裁判所本庁管内のみならず支部管内においても、法律相談センターの開設、自治体等の開催する法律相談会への弁護士の派遣、刑事事件において逮捕された本人からの接見希望の申し出等に基づく勾留場所への当番弁護士の派遣などを行っている。

2 裁判官の減員と地域司法への影響

⑴ 県内では、昨年5月1日から大曲簡易裁判所の裁判官が1名減員となった(以下「本件の減員」という。)。この件については裁判所から当会に連絡がなかったのであるが、これにより大曲簡易裁判所に裁判官が常駐しなくなった。長年、大曲簡易裁判所では裁判官が常駐しており、角館簡易裁判所に填補する火曜日以外の週4日間は、民事通常訴訟事件、民事調停事件、刑事通常第一審事件などを担当していた。ところが、同日以降は非常駐となり、湯沢簡易裁判所の裁判官が、水曜日の週1日のみ填補してこれらの事件を担当することになった。

また、本件の減員に伴い、角館及び横手の両簡易裁判所でも裁判官の填補及び開廷日が減少している。なお、本件の減員前後における県南の裁判官についての填補及び開廷日の変動状況は、別紙1のとおりである。

⑵ 本件の減員により、刑事の身柄事件において公判期日が通常より2週間程度遅れて入る、民事調停事件において調停期日が通常より1か月以上遅れて入る、といったことがあった。また、当事者からは、本来当事者が利用しやすい裁判手続であるはずの民事調停事件が利用しづらくなったという声を耳にするようになった。

開廷日が減少すれば期日の選択肢が少なくなり、期日調整が困難になるのは当然である。こうして期日が先延ばしになり、裁判手続が長期化する。

⑶① しかも、事件数が減少しない中で開廷日が減少すると、開廷日に事件が集中し、適切な開廷日には期日を設定できる時間がないとして、翌週以降で期日調整をせざるを得なくなる場合もある。

② 別紙2は、直近6年間の角館、大曲、横手及び湯沢の各簡易裁判所における民事通常訴訟事件、民事調停事件及び刑事通常第一審事件の各事件数を示したものである。

各事件の事件数は、直近6年間において変動は小さく、概観しても減少しているとはいえない。

③ このような状況において、本件の減員により、横手簡易裁判所の開廷日が週3日から週2日に減少し、大曲簡易裁判所の開廷日が週4日から週1日に減少した。とくに大曲簡易裁判所は、開廷日の1日に民事通常訴訟事件、刑事通常第一審事件に加え、期日に長時間を要する民事調停事件を扱うことになる。民事調停事件では裁判官が期日に立ち会うこともあり、評議を要することもある。こうして開廷日の時間的余裕はなくなっていく。

④ このように、開廷日が減少すると、開廷日に事件が集中して適切な開廷日には期日を設定できず、その先の開廷日の中から続々と期日が決定していく。これでは今後の期日調整はますます困難となるだけでなく、各事件の期日が全体的に先延ばしになり、裁判手続が長期化する。

⑷ 裁判の迅速化に関する法律では、裁判手続の一層の迅速化を図り国民の期待に応える司法制度の実現を目指しており、また、簡易裁判所は、簡易・迅速な解決ができることや、市民が容易に裁判手続を利用できることを目的として設けられている司法機関である。

しかし、本件の減員により開廷日が少なくなり、期日調整が困難となり期日が先延ばしになることは、法や制度の要請する裁判の迅速化を阻害するほか、司法サービスを低下させ、県南の地域住民が裁判手続を利用しづらくなる結果、裁判手続を通じた権利の実現に影響を及ぼしかねない。

加えて、刑事事件においては、公判期日が入りづらくなり公判が遅延するような事態は、被告人をさらに長期間身柄拘束させたり、不安定な状態に置かせたりして、基本的人権の侵害につながるおそれがある。

しかも、昨今では、裁判所機能の合理化のために、本件の減員のほかにも、支部機能が一部削減される動きが見られるところである。

司法機能の合理化のために、司法機能の充実の要請に反し、裁判所支部管内の地域住民の裁判を受ける権利が損なわれるような事態はあってはならない。

3 よって、当会は、裁判所支部管内の地域住民に対する司法サービスが今後も決して低下することなく、より一層の充実が図られるよう、引き続き努力する決意を表明するとともに、本件の減員によって懸念されるさまざまな悪影響を解消させるため、最高裁判所に対し、従前どおり、大曲簡易裁判所に裁判官1名を再配置し、裁判官の常駐を堅持するよう求める。

以上のとおり決議する。

                2021年(令和3年)2月12日

秋 田 弁 護 士 会

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