改めて裁判所速記官の養成再開を求める会長声明
1 裁判所速記官制度は、裁判記録の正確性や公正性を担保するとともに、迅速な裁判に資するものであり、裁判所法60条の2第1項も、「各裁判所に裁判所速記官を置く」としているところである。
ところが、最高裁判所は、1998年度より新たな速記官の養成を停止しており、これに対し、当会は、2013(平成25)年12月19日付で最高裁判所に要請書を提出するなどして、速やかに裁判所速記官の養成を再開されるよう強く求めてきた。
しかしながら、最高裁判所は、今日に至るも裁判所速記官の養成を再開せず、ピーク時である1996年時点で全国に825名配置されていた速記官は、2018年4月1日時点で187名にまで減少し、秋田地方裁判所管内においても、現在2名となっている。
2 最高裁判所は、裁判所速記官による速記録に代わるものとして、民間への委託による「録音反訳」を導入している。
しかし、「録音反訳」については、民間業者での情報漏えいの事例が報告されており、プライバシー保護が十分に図られないおそれがある。また、証人尋問等では、発言者の発声が不明瞭であったり、声が小さかったり、複数人の発言が重なってしまったりする場合があり、そのような場合に録音データを聞いても正確な反訳が困難となることがあり得るが、法廷で立ち会う裁判所速記官の場合は、直ちに裁判長に告げて確認を求めることができるから、証言や供述内容が不明瞭なまま放置される場合はほとんどない。このように裁判所速記官による速記録は正確性の点でも優れている。
3 さらに、裁判員裁判では、録音反訳の完成を待って審理や評議を行うような進行は不可能であるから、速やかに速記録を作成させる必要性は特に高いが、この点でも、裁判所速記官による速記録は、公判終了後、直ちに文字化されて証言・供述記録を作成できるまでに技術的に進歩している。
なお、現在、裁判員裁判では、ビデオ録画とコンピューターの音声認識を組み合わせ、一定の単語を手がかりに、証言や供述の各場面を検索できるシステムが導入されているが、正確性や速読性に欠けるといった問題点は依然残ったままである。
4 公正で客観的な記録の存在は、国民の公正・迅速な裁判を受ける権利を保障するため不可欠な前提である。裁判の適正や裁判所の記録作成に対する国民の信頼を確保するためには、厳しい研修を受け、裁判の実情に精通した裁判所速記官による速記録の作成が不可欠である。
よって、当会は、最高裁判所において、すみやかに裁判所速記官の養成を再開されるよう、改めて強く求めるとともに、国に対し、それに必要な予算措置を講じるよう合わせて強く求めるものである。
2018年(平成30年)8月29日
秋田弁護士会
会長職務代行者
副会長 西 野 大 輔