日本国憲法施行70周年にあたり立憲主義及び憲法の基本原理の堅持を求める会長声明
1947年(昭和22年)5月3日に日本国憲法が施行されてから70周年を迎えた。
日本国憲法は、多くの国民が犠牲となった先の大戦を真摯に反省し、二度と同じ過ちを繰り返さないという決意に基づき、個人の自由及び権利を保障するために国家権力を憲法によって制限するという立憲主義を基本理念とし、基本的人権の尊重、恒久平和主義、国民主権を基本原理として制定され、施行後70年にわたり、多くの国民から支持されてきている。
しかし、以下のように、近年の日本国憲法を取り巻く状況は深刻であり、現在、大きな試練にさらされている。
第一に、安保法制の問題である。政府は、2014年(平成26年)7月の閣議決定で、歴代内閣が踏襲してきた、憲法第9条の下においては集団的自衛権は行使できないとする憲法解釈を変更し、その行使が容認されるとの解釈改憲を行った。そして、同閣議決定に基づき、政府及び与党は、2015年(平成27年)9月19日、集団的自衛権の行使を可能とする安保法制を成立させた。同法制に対しては、憲法学者の大多数に加え、内閣法制局元長官、最高裁判所元長官及び同元判事からも違憲であるとの指摘がなされ、多くの国民も反対の意思を表明していたにもかかわらず、国会では十分な審議がなされないまま、強行的に採決された。このような解釈改憲及びこれを根拠とする安保法制の強行採決は、国家権力を憲法によって制限するという立憲主義の基本理念をないがしろにする行為であるばかりか、集団的自衛権の行使は、恒久平和主義の原理から認められず、安保法制は違憲である。
当会は、2016年(平成28年)2月26日付けの総会決議により、国会に対してかかる安保法制を廃止する立法措置を求めるとともに、政府に対して同法制に基づく措置を発動しないことを求めている。
第二に、緊急事態条項(国家緊急権)の問題がある。2016年(平成28年)11月から開かれた衆参両院の憲法審査会において、創設の必要性が主張されている。この緊急事態条項は、戦争、内乱、恐慌、大規模な自然災害等、平時の統治機構をもってしては対処できない非常事態において、国家秩序維持のために、立憲的な憲法秩序を一時停止する非常措置をとる権限(国家緊急権)を行政府に認めるものである。しかし、どのような場合に緊急事態宣言を発するかの判断が基本的に行政府に委ねられ、その宣言がなされた場合には、立法権限の一部を行政府が行うばかりか、行政府の判断で国民の権利をも制限することが可能となってしまい、立憲主義の崩壊を招きかねない。かかる条項については、ナチス、ヒトラーがこれを濫用して権力を掌握した上で、全体主義の下で多くの人命を奪い人権侵害を招いたという悲惨な歴史を忘れてはならない。
そもそも、このような緊急事態への対処は、事前に綿密な対応体制を検討し、法律を制定することによって十分に対応できるものであって、憲法に新たな規定を創設する必要性は全く認められない。
当会は、日本国憲法施行70周年にあたり、国会及び政府に対して、個人の自由及び権利を保障するために国家権力を憲法によって制限するという立憲主義並びに日本国憲法の基本原理を堅持することを求める。
2017年(平成29年)5月3日
秋田弁護士会
会長 三 浦 広 久