憲法解釈の変更による集団的自衛権の容認と国家安全保障基本法案の国会提出に反対する会長声明
集団的自衛権は,自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利とされる。これまで歴代政府は,憲法9条の下において許容されている自衛権の行使は,我が国を防衛するため必要最小限にとどまるべきものであると解しており,集団的自衛権を行使することは,その範囲を超えるものであって憲法上許されないとしてきた。
ところが,安倍内閣総理大臣(以下「安倍総理」という。)は,総理就任後,集団的自衛権の(憲法解釈の)見直しは安倍政権の大きな方針の一つと述べ,総理の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(以下「安保法制懇」という。)を再開させた。安保法制懇は,集団的自衛権の行使容認論者とされる有識者で構成されており,2008年にまとめられた「集団的自衛権の行使を求める報告書」で検討された4類型(公海におけるアメリカ艦艇の防護,アメリカに向かう弾道ミサイルの迎撃等)に限ることなく,集団的自衛権を全面的に容認する方向で検討作業を行っている。
安保法制懇による報告書のとりまとめは来年以降に先送りされることになったが,安倍総理は,今年8月には内閣法制局長官を更迭し容認論者に交代させ,先の臨時国会では,日本版NSC(国家安全保障会議)設置法を成立させるとともに,特定秘密保護法案を衆参両議院で強行採決しており,集団的自衛権の行使の容認に向けた取組を加速している。今後は,安保法制懇に集団的自衛権の行使を全面的に容認する報告書を提出させ,政府解釈の変更をし,集団的自衛権の行使を「可能」とする国家安全保障基本法案の国会提出を目指すものと考えられる。
しかし,我が国の安全保障防衛政策は,立憲主義を尊重し,憲法前文と9条に基づいて策定されなければならない。憲法は,前文で平和的生存権を確認し,9条で戦争放棄,戦力不保持及び交戦権否認を定めるなど徹底した恒久平和主義を採用している。この憲法前文や9条の恒久平和主義の基本原則を,時々の政府や国会の判断で解釈を変更することはもとより,法律を制定することによってこれを根本的に変更することは,政府や立法府を憲法による制約の下に置いている立憲主義に反し,許されないものである。
よって,当会は,集団的自衛権行使を禁じる確立された憲法の解釈を政府の都合で強引に変更してこれ容認することや,集団的自衛権の行使を求める憲法違反の法案が国会に提出されることに,立憲主義の見地から,強く反対する。
2013年(平成25年)12月20日
秋田弁護士会
会長 江 野 栄