特定秘密保護法案に反対する会長声明

2013年11月11日 公開

  本年10月25日に政府が閣議決定し,開会中の臨時国会に提出した特定秘密保護法案(以下「本法案」という。)が,11月7日衆議院本会議で審議入りした。
  
  しかし,本法案は,知る権利などの基本的人権及び国民主権原理に反し,国権の最高機関たる国会を軽視するものであるから,当会は,本法案の成立に強く反対する。
  
  本法案は,「特定秘密」について「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため,特に秘匿をすることが必要であるもの」と定義し,行政機関の長が,①防衛に関する事項,②外交に関する事項,③特定有害活動の防止に関する事項,④テロリズムの防止に関する事項の4分野で「特定秘密」を指定することとし,これを漏らした者等に重罰を科すものとなっている。
  
  しかし,「特定秘密」の範囲は広範かつ不明確であって,行政機関の長の恣意的な判断によって「特定秘密」が指定され,主権者たる国民に本来公開されるべき情報が統制・隠ぺいされるおそれが大である。
  しかも,「特定秘密」の指定について第三者がその是非をチェックする仕組みも存在しない。
  
  そして,いったん「特定秘密」に指定されれば,5年間の秘密指定の有効期間が経過したとしても更新することによって指定を延長することができ,更新を繰り返すことによって指定が恒久化されてしまう危険性がある。本法案では,指定期間が30年を超える場合には内閣の承認を必要とするとされているが,指定権者たる行政機関の長の判断を追認する形で内閣の承認がなされることが予想されるから,かかる規定の実効性は無いに等しい。
  
  次に,本法案は,故意又は過失による漏えい行為のほか,漏えい行為の未遂や共謀,独立教唆及び煽動,並びに「特定秘密」の取得行為とその共謀,教唆,煽動までを処罰対象とする点において処罰範囲が極めて広範であって,刑罰の有する萎縮効果に鑑みると報道や取材の自由,ひいては国民の知る権利を侵害する現実的な危険性がある。
  上記に対し,本法案は,「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分配慮しなければならない」と規定するが,これは単なる訓示的規定にすぎない。また,「取材行為については,専ら公益を図る目的を有し,かつ,法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限り」正当業務とするとの規定もおくが,当該条項自体が抽象的かつ不明確な文言であって「正当業務」に該当するか否かの予測可能性が担保できない以上萎縮的効果を何ら払拭できないうえ,そもそも一般市民や市民ジャーナリストには適用されない。
  
  さらに,本法案は,適性評価を経た者に「特定秘密」の取扱いをさせることにしているが,適性評価制度では,精神疾患の有無・経済的状況など通常他人に知られたくない個人情報が調査対象となり,個人のプライバシーや思想・信条の自由等を侵害するものである。
  
  そして,行政機関から国会に提供された「特定秘密」に関しては,国会議員による漏えい行為も処罰対象に含まれるため,秘密を知った国会議員は,他の国会議員との間での政策論議は封殺され,政策秘書,政党役員と相談することや学者,弁護士などの外部識者と議論すること,支持者・有権者に対し報告することすらできないことになる。
  そうすると,院内外における国会議員の活動が大きく制限されることになり,行政府を監視すべき国権の最高機関たる国会の本来的機能が著しく阻害されるのであって,議会制民主主義及び議院内閣制という立憲的国家の根本的原理すら覆されるものと言っても過言ではない。
  
  以上の次第であるから,当会は,本法案の成立に強く反対する。 

2013年(平成25年)11月11日
 秋田弁護士会
   会長 江 野   栄

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