合意による弁護士報酬敗訴者負担法案に反対する声明
2004年7月22日 公開
政府は、本年3月2日、当事者の合意によって弁護士報酬を敗訴者負担とする制度の導入を内容とする「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」を第159回通常国会に提出したが、審議未了のまま継続審議となっている。
秋田弁護士会は、2001年(平成13年)1月16日、弁護士費用の一般的な敗訴者負担制度は国民の司法へのアクセスを現状より困難にし、国民の裁判を受ける権利を保障する観点から不適切であるとの理由から、これに反対する会長声明を発表するとともに、街頭での署名活動等を通じて広く国民に働きかけてきた。
司法アクセス検討会では、最終段階である2003年(平成15年)12月になって、それまでは敗訴者負担を導入すべき訴訟類型を検討していたにもかかわらず、突然、弁護士費用は原則各自負担という従来の制度を維持しながらも、訴訟提起後に双方の当事者に代理人がついて共同申立がなされた場合に限り弁護士費用の一部を敗訴者負担とするという、合意による敗訴者負担制度の導入の意見を取りまとめ、司法制度改革推進本部において法案化した。また、司法アクセス検討会における議論では、私的契約に訴訟費用の敗訴者負担条項が入っている場合には、本法案にかかわらず、その条項に基づいて勝訴者は敗訴者に対して弁護士報酬を請求できるとされている。
本法案は、敗訴者負担制度を一般的ないし原則的に導入するものではないが、以下のように看過できない問題がある。
第1に、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入は、司法アクセスを促進する効果を目指して議論されていたものであるが、本法案では当事者が訴訟提起後に合意しない限り適用されないことから、その効果は全く期待できない。
第2に、前記のとおり、本法案は訴訟手続上の制度を定めるものであり、私的契約による敗訴者負担の合意については禁止するなどの対策が取られていない。そのため、本法案成立を契機として、消費者と事業者間の契約、労働者と使用者間の契約、大企業と中小零細企業間の契約のように、契約上の立場に格差のある当事者間の契約や約款に敗訴者負担の合意約款が広く一般的に盛り込まれかねない。そうなれば、弱い立場にある者は、敗訴したときの弁護士費用の負担を恐れ、訴訟提起及び応訴についても躊躇することになり、結果として市民の司法アクセスに重大な萎縮効果を及ぼし、裁判を受ける権利が阻害されることにもなる。
秋田弁護士会は、このような問題を抱えた法案には絶対に反対であり、本法案を廃案とすべきことを強く求める。
以上
2004年(平成16年)7月22日
秋田弁護士会
会長 湊 貴美男