司法修習生の給費制の堅持を求める声明
2004年7月22日 公開
司法制度改革推進本部法曹養成検討会は、本年6月15日開催の検討会において、平成18年度から司法修習生に対する給費制を廃止し、一定額を貸し付ける貸与制を導入するとの意見の取りまとめを行った。新聞報道によれば、政府は、本年秋に予定される臨時国会に、給費制の廃止と貸与制を盛り込んだ裁判所法改正案等の関連法案を提出する方針であるとのことであり、司法修習生に対する給費制は廃止に向けて大きく動き出している。
秋田弁護士会は、2003年(平成15年)9月25日、司法修習生の給費制堅持を求める会長声明を発表し、給費制の廃止に反対しその堅持を求めたが、今般の情勢の変化に臨み、改めて司法修習生に対する給費制の堅持を求めるものである。
司法修習生への給費制は、司法修習生の生活を保障することによって司法修習生が修習に専念できるようにしたものであり、現行の司法修習制度の基盤となるものである。
すなわち、法曹養成制度は、単なる職業人の養成ではなく、国民の権利擁護と民主主義の根幹をなす法の支配の担い手となるべき質の高い専門家を養成する制度であって、それは極めて公共性・公益性が強いものである。このような司法修習の重要性に鑑み、司法修習生は修習に専念することとされ、そのために司法修習生の兼業・兼職を禁止して修習専念義務を課すとともに、一方で、その生活を保障するための給費制が取られてきたものである。その意味で、給費制は現行司法修習制度と不可分一体のものというべきである。修習専念義務を課したまま給与を支給しないことは合理性を欠き、当然の事ながら、司法修習生の生計の維持を困難にするものである。また、給費制は、貧富の差を問わず、社会の幅広い層の中から多様で優秀な人材が法曹となることを可能としてきたものである。
新たに導入された法曹養成制度では、司法修習生になる前に2年ないし3年の法科大学院への在学が不可欠とされ、大学生時代の学資に加え、その間に多額の学資や生活資金などの費用負担が加わる。そのうえ、司法修習生の給費制が廃止されるとなれば、法曹になろうとする者の経済的負担が増大することは明らかである。このような経済的負担の増大ゆえに法曹への志望を断念することになれば、経済的富裕層のみに法曹資格が与えられ、法曹への多様な人材登用は望み得ないことになり、社会、国民にとって大きな損失となる。
貸与制を導入した場合、新人法曹が多額の負債を抱えて生活をスタートさせることになり、そのことは、特に弁護士となる者が経済的な理由から公益的な活動に参加しなくなるという事態を生じさせ、法曹のあり方自体を変容させる危険性がある。
また、貸与制のもとで、任官者や公益活動従事者には返済を免除する措置を講ずる制度を導入するとの議論もあるが、裁判官・検察官志望の者を特別に優遇するものであり、公平を欠き、平等の原則に違反し、弁護士の日常業務が公的活動の側面を有していることを看過するものである。
今時の司法制度改革においても、一方で司法の担い手たる法曹について量と質の拡充を図るべきものとされ、他方で国は必要な財政上の措置を講じることが義務づけられている。したがって、質の高い法曹を養成するための基本となる司法修習において、財政事情を理由として給費制を廃止することは、司法改革の趣旨にも反し許されるものではない。
よって、司法修習生の給費制度を今後も堅持するように強く求めるものである。
以上
2004年(平成16年)7月22日
秋田弁護士会
会長 湊 貴美男