集団的自衛権行使容認及び安保法制改正法案に反対する会長声明

2015年5月21日 公開
 政府は,本年5月14日,自衛隊法,武力攻撃事態対処法,周辺事態法,周辺事態船舶検査活動法,国連平和維持活動協力法など10件の防衛関係法律を改正することを内容とする「平和安全法制整備法案」,及び,恒久的な自衛隊の海外派遣を内容とする新規立法の「国際平和支援法案」を閣議決定し,15日に国会に提出した(以下これらを総称して「本法案」という。)。

しかし,本法案は,日本国憲法の恒久平和主義に反し,後述のとおり多くの問題点を抱えており,容認できない。

第1に,本法案は,自衛隊法,武力攻撃事態法等の改正により,「存立危機事態」と認められる場合に,世界のどこであっても,自衛隊が米軍その他の外国軍隊とともに武力を行使することを可能としている。しかし,地理的な限界を排除した「存立危機事態」という概念自体が不明確であり,これではそもそも自衛権の行使とはいえず,まさに憲法9条が禁じる「武力の行使による国際紛争の解決」を企図するものとして,憲法に反する。

第2に,本法案は,我が国の周辺地域での周辺事態に対応する米軍の後方地域支援等に限定していた周辺事態法を重要影響事態法に改正し,「重要影響事態」に該当すれば自衛隊の後方支援を可能としている。しかし,この概念も明確とはいえず,これにより,現に戦闘行為が行われている現場以外ならば地域の限定なく世界中どこへでも,また米軍以外の国軍に対しても,後方支援等ができることになりかねない。さらに,武器以外であれば,弾薬の提供等まで含む後方支援を可能としている。かかる後方支援は,他国の武力行使との一体化と見られるものであって,憲法9条の禁止する海外における武力行使につながるものとして,憲法に反する。

第3に,本法案は,国際平和支援法を新設することにより,「国際平和共同対処事態」に該当すれば,これまでのように個別立法を作らずとも,自衛隊が協力支援活動等を行うことができることとされている。しかし,このような事態として,国連が統括しない有志連合などによる「国際連携平和安全活動」も含まれており,その対象は広範である。また,活動の内容としても,国連平和維持活動協力法の改正によってこれまで認めていなかった「安全確保業務」や「駆け付け警護」をおこなうことを目指している。そして,これらいずれの場合にも,自衛隊に任務遂行のための武器使用を認めている。

しかし,国際平和協力の名のもとで,有志連合などの国際紛争への介入に際して,自衛隊が武器使用による安全確保,すなわち治安維持活動にまで従事することは他国の武力行使と一体化することとなり,自衛隊隊員の生命への危険を飛躍的に増大させると共に,自衛隊による海外での武力行使に発展してしまう事態を招きかねない。また,恒久平和主義のもとで,これまで我が国が築いてきた非軍事分野での国際協力の実績に対する信頼をも失わせかねず,その結果我が国の非軍事の国際協力の活動の余地をかえって狭める危険性を有している。

第4に,本法案では,自衛隊の海外派遣等について例外なき事前承認の仕組みを作ったなどと主張されたが,これは国際平和支援法に限ったものであって,存立危機事態での自衛隊の武力行使,重要影響事態での自衛隊の他国軍隊への支援,国連平和維持活動協力法改正案による停戦監視業務及び安全確保業務については事後承認の例外が設けられており,各概念が不明確であることも相まって,政府の考え方次第で国会の事前承認を不要とされかねない危険性を有している。加えて実際の国会での審議においても,特定秘密保護法の存在により国会審議に十分な情報が提供されない可能性が高い。したがって,本法案においては,民主的コントロールが不十分である。

以上のとおり,本法案は,徹底した恒久平和主義を定め,平和的生存権を保障した憲法前文及び第9条に違反し,これらの憲法の条項を法律で改変するものとして立憲主義の基本理念に真っ向から反している。憲法改正手続を踏むことなく憲法の実質的改正をしようとする点については,国民主権の基本原理にも反している。

 よって,当会は,平和国家としての日本の国の在り方を根底から覆すものとして,本法案による安全保障法制の改定に強く反対するとともに,本法案が成立することのないよう,その違憲性を強く訴えるものである。

2015年(平成27年)5月21日
 秋田弁護士会
   会長 京 野 垂 日

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