洋上風力発電に関する要望書

2020年10月29日 公開

洋上風力発電に関する要望書

令和2年10月29日

経済産業大臣殿

国土交通大臣殿

(以下参考送付)

秋田県知事殿

秋田市長殿

男鹿市長殿

潟上市長殿

にかほ市長殿

能代市長殿

八峰町長殿

三種町長殿

由利本荘市長殿

                     秋田弁護士会

                            会長  山 口 謙 治

第1 要望の趣旨

 当会は,経済産業大臣及び国土交通大臣に対し,海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下,「再エネ海域法」という。)に基づく占用公募制度の運用において,公募参加者に対し,海岸等の陸地及び連絡船並びにクルーズ船などからの写真に洋上風車群・洋上変電施設等の設備を配置合成したモンタージュ写真の提出及び公開を義務づけることを要望する。

第2 要望の理由

1 景観法の基本理念

 良好な景観は,美しく風格のある国土の形成と潤いのある豊かな生活環境の創造に不可欠とされ(景観法2条1項),地域の自然,歴史,文化等と人々の生活,経済活動等との調和により形成されるものである(景観法2条2項)。そして,良好な景観は,地域の固有の特性と密接に関連することにかんがみ,地域住民の意向を踏まえ,それぞれの地域の個性及び特色の伸長に資するよう,その多様な形成が図られなければならない(景観法2条3項)とされ,良好な景観は,観光その他の地域間の交流の促進に大きな役割を担うものであることにかんがみ,地域の活性化に資するよう,地方公共団体,事業者及び住民により,その形成に向けて一体的な取組がなされなければならない(景観法2条4項)とされる。

 かように,法律上景観のあり方には地域住民の意思反映が求められている。

2 景観に関する当会の関わり

 秋田県では,豊かな自然に恵まれた景観を守り,もって心の和む県土を後世に引き継ぐことを目的とする「秋田県の景観を守る条例」が制定されている。当会はその改正案等に関するパブリックコメントを平成22年6月28日に発出し,秋田県景観条例等改正案に対する意見書を平成22年11月4日に発出し,住民参加の視点が欠けていることを指摘した。

3 洋上風力発電事業の現状

 現在,秋田県では南北に亘り沿岸部での再エネ海域法に基づく複数の手続が進行し,環境影響評価手続も次々と実施されているため,陸上から秋田県沖を眺望すると,程度の差はあっても眺望する地点から林立する多数の風車(風車群)が視野に入る景観が生まれることが予想される。かように,風力発電施設の設置が大規模広範囲かつ集中的に計画,事業化されつつある現状からは,秋田県沿岸全体の景観が一変する蓋然性が高いといえる。

 のみならず,垂直視角10度から12度は,「目いっぱいに大きくなり,圧迫感を受けるようになる。平坦なところでは,垂直方向の景観要素としては際立った存在になり周囲の景観と調和しえない」となる見え方とされている。風車のローター直径が180メートルにもなる計画が存在したことや,主要な眺望点から風車を見た際の最大垂直視角が11.6度となる計画が存在したことから,巨大な風車群が沖合に設置されることにより,秋田県沿岸から沖合への広々とした海洋の景観が損なわれ圧迫感を感じさせるものとなる懸念が存在する。

 かように,風車群が秋田県沖に出現することで,秋田県内の各地から見える海の景観に大きな影響を及ぼすことが懸念され,秋田県民が先祖から受け継いできた「豊かな自然に恵まれた県」という遺産を秋田の海において損なう虞がある。加えて,秋田の観光,海洋レジャーなどにもマイナスの影響を及ぼすおそれも否定できない。

4  要望について

 先に述べた理由より,洋上風車の基数配置如何によっては秋田県沿岸全体の景観が一変する虞があるが,秋田県沿岸全体からの景観がどのように変化するかについて,判断材料が広く秋田県民に示されているとは言い難いのが現状である。

 景観は文章による表現が困難であり,また,文章に基づいて理解することも容易ではないところ,広く秋田県の沖合広範囲に風車が設置された場合の映像やモンタージュ写真が存在しない。映像やモンタージュ写真などによる情報提供が景観問題を検討するにあたり極めて有用であることは,個々の環境影響評価手続でモンタージュ合成写真の提供が行なわれたことからも認められる。

 かように,洋上風力発電施設による景観の変化については,秋田県民に対する分かりやすい情報提供が行なわれているとは言い難く,秋田県民が秋田県沿岸全体に渡る景観がどのように変化するのか,全容を把握することができないままである。秋田県が,令和2年6月24日,洋上風力発電施設建設の経済効果に関し,秋田県内の企業が受注できる可能性のある額を2691億円に上るとの試算結果を県議会産業観光委員会に提出し,経済効果について分かりやすい秋田県民への情報提供を行なっていることを考慮すれば,景観に関する情報提供の現状は不均衡と言わざると得ない。

 景観の変化について,秋田県民の意思が十分に反映されるべきことは,憲法の住民自治の理念や先に述べた景観法の基本理念からも明らかである。そして,モンタージュ写真を作成できるのは,具体的な設置計画を有する事業者以外に見当たらないところ,令和2年9月18日に公表された再エネ海域法に基づく手続による秋田県能代市,三種町,及び男鹿市沖と秋田県由利本荘市沖(北側・南側)の公募占用指針案では,公募占用計画に記載すべき事項として,「現時点で想定される海洋再生可能エネルギー発電設備(定義規定には洋上風車,洋上変電施設,観測塔などが挙げられている)の配置場所」や,「海洋再生可能エネルギー発電設備の構造」が挙げられている。公募占用計画を提出できる程度に具体性を有する公募参加者であれば合成写真の作成は可能と思料される。上記記載事項は,長崎県五島市沖海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域公募占用指針と同じであり,現時点で公募占用指針案が公表される段階まで進んでいない区域についても,今後も記載事項になると思料されるため,合成写真の作成が可能であるかについては今後公募手続が実施される全ての区域についての公募参加者に共通するものといえる。

 また,公募参加者は他の公募参加者の情報を保有しているとは限らないが,今後進められる再エネ海域法による公募手続で,各区域の合成写真が公表されれば,秋田県沖の景観全体がどのように変化することになるのか,想像しやすくなるといえる。なぜなら,再エネ海域法に基づく促進区域指定が行なわれた区域である秋田県能代市,三種町及び男鹿市沖と秋田県由利本荘市沖(北側・南側),有望区域となった八峰町・能代市沖,すでに一定の準備段階に進んでいる区域である潟上市及び秋田市沖は,いずれも広い区域であり,これらを併せた沿岸部は,秋田県沿岸の大部分といえるからである。

 そこで,再エネ海域法に基づく公募手続を所掌する経済産業省及び国土交通省に対し,公募参加者にモンタージュ写真の提出及び公開を義務づけることを通じ,住民説明会等に参加できない秋田県民でもホームページ等を通じて情報提供が受けられるようになることを要望するものである。

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