イージス・アショア配備計画断念にあたっての会長声明
2020年6月15日、河野防衛大臣は、突然イージス・アショアの配備プロセスを停止すると発表し、同月24日、国家安全保障会議は、配備計画を断念する旨を決定した。この決定により、陸上自衛隊新屋演習場へのイージス・アショア配備も白紙撤回となった。
2017年11月、イージス・アショアの新屋演習場配備計画が報道された直後から、新屋地区の住民の皆様を中心とした反対運動が始まり、これが秋田県全体に広まった。秋田弁護士会でも2019年3月20日に「新屋演習場へのイージス・アショア配備に反対する会長声明」を発表し、その中でイージス・アショア配備の危険性だけでなく、イージス・アショア配備そのものの必要性・相当性に重大な疑問があり、憲法の国際協調主義、平和主義に反し、憲法が保障する平和のうちに安全に生存する権利に抵触する可能性が大きいこと、さらに、憲法の地方自治の要請である地域住民の同意を得る手続きも取られていないことの問題点を指摘した。2019年7月の参議院議員選挙では、この配備計画への賛否が大きな争点となり、秋田県内の多くの市町村議会でも配備反対の請願が採択された。
今般の政府による配備計画断念は、このような秋田県を挙げての反対運動の成果であるといえる。
しかし、以下のとおり、これで問題が解決したわけではない。
河野防衛大臣は、配備計画撤回の理由として、迎撃ミサイルを発射した際にブースターが演習場内ではなく、市街地、民家が所在する場所に落下することを現時点では防ぐことができないこと、これを実現するためには、さらにシステムとミサイル本体の改修に12年間と2000億円の追加費用を要することになるからと説明するにとどまっている。この説明は、防衛省が地元説明会で行ったブースターは演習場内に落下する旨の説明に根拠がなかったことを明らかにしただけで、当会が会長声明で指摘したイージス・アショア導入の根本的な問題点には何ら触れられておらず、途中で断念せざるを得ないような杜撰な配備計画を性急に決定した原因や、計画断念によって発生した巨額の損失に対する責任の所在といった問題の検証もなされていない。
加えて、安倍首相は、イージス・アショア配備計画の停止発表後の記者会見において、同計画に代えて敵基地攻撃能力の保有を検討することを明言し、自由民主党もこの議論を推進しようとしている。これは日本の防衛を「専守防衛」から「積極防衛」へと変更するもので、これまでの憲法9条の枠組みを逸脱する懸念が強いことから、今後の議論を慎重に見守る必要がある。
秋田弁護士会では、今後とも、このような憲法9条を中心とする平和・防衛の問題、国や地方住民を巡る地方自治の問題等についての調査研究を通じて、市民の皆様への情報提供と必要な活動を継続する所存である。
以上
2020年8月24日
秋田弁護士会
会長 山 口 謙 治