法律事務所に対する捜索に抗議する会長声明

2020年3月2日 公開

 2020年(令和2年)129日,東京地方検察庁の検察官らは,刑事被疑事件について,関連事件の被告人の元弁護人の法律事務所の捜索を行った。 

報道記事等によれば,検察官らは関連事件の被告人が保釈中に事務所内で使用していたパソコンや面会簿などを押収しようとしたが,弁護士らは,捜索に先立ち,押収拒絶権(刑事訴訟法105条)を行使した。その際,面会簿については写しを裁判所に提出していたこともあり,提出に応じる旨の意思を表示していたようである。

ところが,検察官らは,無断で裏口から同法律事務所に立ち入り,退去要請を無視して滞留を続け,法律事務所内のドアの鍵を破壊するなどした。

そもそも,刑事司法手続における個人の人権保障を実現するための刑事弁護活動は,依頼者の秘密に属する事柄の情報共有も含めた,弁護人・依頼者間の緊密な信頼関係をその不可欠の前提とするものである。かかる見地から,法は弁護士に押収拒絶権を与え,弁護士が保有する依頼者の秘密に属する事項については,捜査機関による捜索活動に一定の限界を定めると共に,憲法上保障された弁護人依頼権(憲法34条)の趣旨を十全化しているのである。

かかる押収拒絶権の持つ重要な意義からすれば,秘密であるかどうかの判断は押収拒絶権者である弁護士の専権に属し,また,一旦令状に記載された物の全部又は一部について秘密である旨の申立がなされ押収拒絶の意思表示がなされた場合,捜査機関は,押収対象物の捜索・検証もできないと考えるべきである。

 以上を前提とすれば,予め弁護士が対象物について秘密性の有無を判断した上で押収拒絶の意思を表示したにも関わらず,検察官らが無断で法律事務所に立ち入り,法律事務所内のドアの鍵を破壊するなどして捜索を行った行為は,押収拒絶権を侵害する違法な捜索差押えであるといわざるを得ない。

 また,市民は通常,弁護士に高度の守秘義務が課されているからこそ安心して事実を明かして相談を行う。したがって,法律事務所には保秘の要請の強い資料が集積されている。ところが,かかる捜索が横行してしまえば,市民が弁護士に依頼をし自己の法的権利を守ることについて萎縮をもたらすことにもなりかねず,かかる観点からも今回の捜索は到底是認できるものではない。

 当会は,今回の検察官らの上記行為に抗議するとともに,二度と同様の行為を行うことがないよう求める。

2020年(令和2年)32日   

秋田弁護士会 会長 西野大輔

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