いわゆる共謀罪法案の提出に反対する会長声明

2016年10月28日 公開

1.    報道によれば,政府は,組織的犯罪処罰法を改正し,「組織的犯罪集団に係る実行準備行為を伴う犯罪遂行の計画罪」を新設する法案(以下「提出予定新法案」という)を,次期通常国会に提出することを検討しているとされる。これは,過去3回にわたって政府が国会に提出し廃案となった「共謀罪法案」に,若干の修正を加えたものである。
 なお,提出予定新法案は今秋の臨時国会に提出される見込みと報じられていたが,次期通常国会に先送りされたものである。

2.    過去の政府提出法案における共謀罪法案は,長期4年以上の懲役・禁固刑が法定刑と定められている犯罪行為について,「団体の活動として」「当該行為を実行するための組織により行なわれるものの遂行を共謀した者」を処罰する内容であった。共謀の内容としては,犯罪を遂行しようとした意思を合致させる謀議,あるいは謀議の結果としての合意があれば足りるとされ,基本的犯罪の実行行為の着手どころか,その準備行為や合意を推進する行為も犯罪の成立要件とはされていなかった。

3.    提出予定新法案を過去の法案を比べると,①組織的犯罪集団の活動として,②具体的・現実的な計画を立て,さらに③実行の準備行為を行うことが必要とされるなど,犯罪成立要件が追加され,改善されたようにも見える。

4.    しかし,提出予定新法案においても,共謀そのものを処罰の対象とするという本質的危険性に全く変わりがない。
 すなわち,共謀罪の立証のため,意思形成のための発言や相談,会議等が,広く捜査の対象となるので,憲法が保障する思想信条の自由,表現の自由,集会・結社の自由などの基本的人権が不当に侵害され,また,これらの権利の行使に萎縮効果を与える恐れがある。また,共謀罪においては,電話による通話内容が犯罪を構成することになるため,これを察知するための盗聴(電話傍受)が常態化する等,適正手続に重大な脅威を及ぼすおそれがある。

5.    そして,提出予定新法案で追加される犯罪成立要件は,上記の懸念をいささかも減じない。「組織的犯罪集団」「具体的,現実的な計画」「実行の準備行為」の各要件は,いずれも抽象的かつ曖昧であって,捜査機関による恣意的解釈や運用がなされるおそれを排除できない。特に「実行の準備行為」は,犯罪発生の危険性をほとんど含まない些細な行為にまで広げて解釈される可能性が高く,可罰的行為を限定する要件としては機能しないと考えられる。

6.    当会は,2005年10月25日,政府による3度目の法案提出に際し,「共謀罪の新設に反対する会長声明」を発しているが,同声明で反対の理由とした諸点は,今回提出予定とされる法案にも依然として妥当する。
 提出予定新法案は,わが国刑法の基本原則に反し,基本的人権の重大な脅威となる点において,過去の提出法案と何ら異ならないものであるから,当会は,提出予定新法案の国会提出に,強く反対する。

                                        以上

 

2016年(平成28年)10月28日

秋田弁護士会

                           会長 外 山 奈央子

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