環境影響評価準備書に対する意見書

2014年10月7日 公開
平成26年5月14日
湯沢地熱株式会社 御中
                                秋田弁護士会
会長 加 藤   謙

環境影響評価準備書に対する意見書


 貴社の山葵沢地熱発電所(仮称)設置計画環境影響評価準備書に対する意見は、以下のとおりです。

第1 対象となる準備書の名称
   湯沢地熱株式会社 山葵沢地熱発電所(仮称)設置計画環境影響評価準備書
第2 上記準備書(以下、「本件準備書」という)についての環境保全の見地からの意見
1 本件準備書の8.1.4 動物について
(1)魚類について、調査地点を増やして、地元の人々から聞き取り調査をするなどの再調査をした上で、予測・調査がされるべきである。
(2)本事業が及ぼすサンショウウオ等への影響については、環境保全措置を講じた後の予測の根拠について、具体的に明らかにされるべきである。
2 本件準備書の8.1.5 植物について
(1)環境保全措置の方法として、「専門家の助言を得て適切に移植を実施」とあるが、実現可能性等を含めて具体的な方法の検討を行うべきである。
(2)水生植物について、「施設稼働時の取水の影響について取水する沢の流量を把握した上で必要があれば予測調査が必要」との指摘について、検討されていないとすれば、検討すべきである。
(3)造成による法面について、植栽による緑化という環境保全策が提示されているが、具体的な方法を定めるべきである。
3 本件準備書の8.1.6 生態系について
  クマタカ、ヒメネズミ以外の種についても調査するべきである。
4 本件準備書8.1.7 景観について
(1)①三途川渓谷、②川原毛地獄、④秋の宮温泉郷からの眺望に及ぼす影響、及び送電線が眺望景観に及ぼす影響を検討すべきである。
(2)3ケ所の主要眺望点という限られた眺望景観を問題にしているのは視点として不十分である。
第3 上記意見の理由
 1 動物について
(1)動物のうち、魚類については、現地調査の結果確認できなかったとして、評価を行っていない。しかしながら、魚類の調査は、工事排水流入地点と取水地点の4箇所 で、投網、サデ網、タモ網により捕獲した種を記録する方法で行われただけである。既存文献及びその他の資料から、湯沢市で生息記録のある魚類は6目8科17種とされていることからして、本件の対象事業実施区域やその周辺で魚類が生息していないとは考えにくい。「発電所にかかる環境影響評価の手引き」(経産省・平成19年)によれば、魚類については、捕獲調査だけでなく、目視観察調査や地元漁師、釣り人等への聞き取り調査を行うとされている。
また、本事業の環境影響評価方法書に対して、秋田県知事から、「沢からの取水及び建設工事排水による下流域の水生生物への影響が考えられることから、必要に応じ調査、予測、評価を行うこと」との意見が出され、経済産業省原子力安全・保安院からは、「施設の稼動時の取水による水生の動植物への影響について、取水する沢の流量を把握した上で、必要に応じてそこに生息・生育する動植物への影響を調査、予測及び評価を行うこと」との勧告が出されている。すなわち、水生生物については、工事排水の排水地点や取水地点だけでなく、その下流域における水生生物の影響を調査、予測、評価しなければならない。よって、魚類について、取水地点と排水地点の4箇所のみの調査では、調査地点が不足していると解される。
以上から、魚類については、調査地点を排水地点及び取水地点の下流域においても設定し、かつ、地元の人々からの聞き取り調査などの方法も加えて再調査をし、それに基づいた予測と評価もなされるべきである。
(2)本件の対象事業実施区域ではトウホクサンショウウオとクロサンショウウオの成体・卵嚢が確認されている。そして、トウホクサンショウウオについては、本事業によって産卵環境である水溜りが一部改変され、産卵場が減少するが、既存施設の流用により、生息環境への影響を可能な限り回避すること、工事区域外への工事関係者の不要な立ち入りを防止すること、工事における盛土の転圧及び法面等の保護や緑化をすみやかに実施し濁水の発生を防止すること、産卵環境である水溜りや水路等は周辺にも広く分布することから、工事の実施及び施設の存在による生息への影響は少ないと予測されている。また、クロサンショウウオについても、配管敷設ルートの変更を加えてあるものの、ほぼ上記と同じ理由によって生息への影響は少ないと予測されている。
しかしながら、上記のサンショウウオは、いずれも、「自然環境保全基礎調査」(環境省)に学術上重要な種であり、秋田県の準絶滅危惧種として記載されてもいる。したがって、産卵場が減少するなどの産卵環境の変化は極力避けるべきと解されるが、既存施設の流用や配管敷設ルートの変更等によって、具体的に産卵場がどの程度減少せずに済むのか等の具体的な予測結果が明らかにされていない。それでは、「生息への影響は少ない」との予測を検証することができないので、可能な限り具体的に明らかにされるべきである。
2 植物について
(1)一般に移植対象になるような希少種については、個体数が少ない・知見が十分でないなど、移植の効果が不確実となる要因が存在すると考えられる。したがって、移植の具体的方法については、当該種の特性等を踏まえて十分検討される必要がある。
 また、移植による悪影響として、遺伝子攪乱・個体過密化などがあり得るところであり、これらの点についての検討がなされた上で、当該種について移植という方法が最善か否かも検討を要すると考えられる。
 個体数の少ない絶滅危惧種であれば、移植によって個体数を保全することが最優先となるとしても、他の地域にも一定以上生育している種の場合は、移植先の慎重な検討がなされなければ、移植によって生じる過密化等の悪影響により、かえって移植先の環境悪化まで招きかねず、環境保全の効果を生まないことも考えられるところである。
 移植先として、対象地域外の当該種が生育している場所を安易に選択するとすれば、過密化等の悪影響が生じるおそれが存在すると同時に、結局当該種の生育面積そのものは縮小することになるという形での環境への影響も生じることになる。
 従って、「適地に移植を実施し、適切に維持管理する」ということで単一的に保全を図りうるか否かという点も含めて、専門家の意見を聞いた上での最善の保全方法が選択されるべきである。
(2)また、水生植物について、「施設稼働時の取水の影響について取水する沢の流量を把握した上で必要があれば予測調査が必要」との指摘が、審査書にあるが検討されたかが不明である。されていないとすれば、検討が必要と考える。
(3)移植によらない環境保全措置として、「地形改変及び樹木伐採の範囲を必要最小限とし」影響を回避するとのことであるが、そのようにして残された植物について、工事や施設の稼働による影響が生じるおそれが懸念される。その点について検討されていないとすれば、検討が必要であると考える。
(4)造成による法面について、植栽による緑化という環境保全策が提示されているが、具体的な方法を明らかにすべきである。
3 生態系について
発電所に係る環境影響評価の手引き(平成19年1月改訂版)第3章、3、3)(339頁)では、「数種の代表種」を注目種として調査等すべきとされている。しかし注目種として調査されたのは、上位種としてクマタカ、典型種としてヒメネズミのみである。外に、上位種としてキツネやフクロウが挙げられており、典型種としてノウサギ等が挙げられているが、これらを調査対象から外す理由も認められないのであるから、複数種を取り上げて調査すべきだったのではないか。また、複数種を取り上げた調査とはいえず、生態系の調査として不十分と解される。
4 景観について
(1)本件準備書は、主要な眺望点として、①三途川渓谷、②川原毛地獄、③山伏岳、④秋の宮温泉郷、⑤秋の宮小安温泉線(県道310号の2地点)を挙げ、そのうちの山伏岳(山頂部)、秋の宮小安温泉線(県道310号の2地点)の3眺望点にしぼって、ここから発電所本館、冷却塔、還元熱水輸送管及び冷却塔からの白煙が視認されることについて検討している。
検討の結果、発電所本館、冷却塔の大きさを可能な限り小さくし、かつ高さを抑えること、また色彩を周辺の自然環境との調和を図ることなどの配慮によって眺望景観及び景観資源への「影響は少ないものと予測」する。また、①三途川渓谷、②川原毛地獄、④秋の宮温泉郷の眺望点については、同書から「発電所本館は視認できない」との理由で検討から外している。
(2)しかし、本件事業実施区域は合計15.7万㎡に及ぶ広大なもので、樹木が伐採され諸施設が建設されるため目につきやすい。対策として諸施設を小さくし、高さを抑えると説明するが、具体性がない。周辺の落葉広葉樹は四季に応じてその色彩を変化させるため、施設の色彩を周辺の自然環境と調和させることは限界がある。それ故、国立・国定公園内では、「工作物を新築し、改築し、又は増築すること」を環境大臣又は都道府県知事の許可制としている。また、冷却塔からの白煙は、自然の噴煙、湯煙などとは異なり、樹林帯のなかから上昇するため、眺望景観に違和感を与える。
(3)さらに、冒頭に記した①三途川渓谷、②川原毛地獄、④秋の宮温泉郷については、上記の理由で検討していないが、冷却塔とそこからの白煙が視認される可能性が認められる以上、検討すべきである。そのほか、準備書は送電線が眺望景観に及ぼす影響について検討していない。
(4)以上によれば、山葵沢地熱発電所の設置は、国定公園内にある山伏岳、高松岳や秋の宮小安温泉線(県道310号)などからの眺望景観に軽視できない影響を与える可能性が高いうえ、①三途川渓谷、②川原毛地獄、④秋の宮温泉郷からの眺望に及ぼす影響、及び送電線が眺望景観に及ぼす影響が検討されていないため不十分というべきである。
(5)ところで、本地域は、栗駒国定公園を含む県南部の有望な観光地である。秋の宮温泉郷、荒湯・荒湯の噴泉塔、三途川渓谷、小安峡温泉、小安峡大噴湯、泥湯温泉、川原毛地獄、湯滝・大湯滝、湯の又大滝、桁倉沼・田螺沼・苔沼を配した木地山高原、栗駒山、高松岳、山伏岳などの景観資源がある。秋田県選定の「秋田え~どご100(景観ふるさとづくりへの誘い)」には「小安峡大噴湯」、「川原毛地獄」、「須川湖から栗駒山」、「須川湖の紅葉盛期」が選ばれている。秋田県教育委員会選定の「お宝発見ハンドブック~文化的景観」18選は、「川原毛地獄と泥湯」を選定している。
こうした多様な景観資源は、広がりをもった豊かな自然のなかにあってこそより生きてくるのであり、観光客、ハイカ-らの期待に応えることができる。この意味において準備書が3ケ所の主要眺望点という限られた眺望景観を問題にしているのは視点として十分といえない。

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