法曹養成制度の全体的な見直しと給費制復活に関する会長声明

2012年2月9日 公開
 政府は昨年12月の臨時国会において、貸与制の下で修習資金の返済が困難な者について返還を猶予する裁判所法の一部改正案を提出し、継続審議扱いとなっている。
 しかし、法曹養成制度の見直しがなされていない状況で、給費制のみが廃止されていることは司法のあり方に対して深刻な影響を与えている。

 給費制は法曹養成制度の根幹であった。現行の司法修習制度は、国家が、国家の責任において、司法機能の充実のために実施するものとして60年以上にわたり営まれてきており、統一修習を実現するために修習専念義務を課し、兼業やアルバイトを禁じた上で、給費を支給していたものであった。

 司法改革は法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度を生み出し、これにより多様な法曹が誕生することが期待された。しかし、法科大学院適性試験の志願者数は、制度発足時と比較して約5分の1以下にまで減少し、社会人入学者の割合も大きく減少している。このような危機的な状況に陥っている最大の原因は、法曹を志望すること自体が大きなリスクを抱えるようになったことにある。しかも、近年の弁護士人口急増によりこれまでにない就職難の状況が発生しており、司法修習考試(二回試験)に合格して司法修習を終了しても就職ができず、弁護士登録などをしない合格者が2011年12月15日現在で400名に達する状況が発生している。このように現行の法曹養成制度は大きな問題点を抱えており、早急に制度を見直しする必要がある。

 現行の司法修習制度においては修習専念義務が課されており、その代償措置として給費制が機能していたという側面があり、修習専念義務を課しながら自費による修習を強要することは、現在の法曹養成制度の下で経済的な負担を負う修習生に、さらに過大な負担を課すこととなる。また、現在の修習制度では、修習生は、実務修習地を自由に選択することは出来ず、最高裁判所の命令によって全国の実務修習地に配属されることになるため、生活費を貸与に頼らざるを得ない修習生にとっては、新たな住居費、転居費用、月々の生活費といった出費の全てについて貸与を受けることによる負担金額は非常に高額で過大な負担となっている。

 このような環境下では、多様で優秀な人材を司法分野に呼び込むことができず、司法分野におけるわが国の国際的な競争力を低下させるばかりか、司法権の果たすべき役割である基本的人権の保障や裁判を受ける権利を十全に守ることができない事態が生じかねない。また、大都市を中心とした法科大学院所在地域外に配属される司法修習生による修習辞退は今後も増加することが予想され、修習生の配置不均衡により司法偏在が進むおそれも存在している。

 以上より、当会は、この通常国会においては、裁判所法の一部改正案についての審議を速やかに行い、その中で貸与制移行によって現に生じている問題を検証し、改正案の中で給費制を復活させた上で、法曹養成制度の見直しを行っていくことを強く求めるものである。

2012年2月9日
 秋田弁護士会
   会長 三 浦  清

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