司法修習生に対する給費制の存続を求める会長声明

2009年10月22日 公開
 裁判所法改正によって,平成22年11月から,司法修習制度における給費制が廃止され,希望者に対して国が修習資金を貸与する貸与制へと移行する予定である。
 しかしながら,給費制の廃止は,高度に公的な使命感を有する質の高い法曹を養成するという司法修習制度の根幹を破壊しかねないものであると言わざるを得ない。

 そもそも,司法修習は,単なる個人の資格取得の課程ではなく,裁判官・検察官・弁護士のいずれかを問わず,法の支配の具現化という高度に公的な使命を負った法曹の養成課程である。
 これまでの司法修習は,一方で修習専念義務を課し労働の自由を制限する代わりに,他方で,給与を支給する(給費制)という仕組みによって所期の成果を上げてきた。
 多くの法曹が,「自分は社会によって支えられてきた職業人である」との共通の自覚を持ち,国民の権利の保持と法の支配の実現のために活動する使命感を共有してきたのも,給費制によるところが大きい。在野法曹たる弁護士についても,弁護士・弁護士会が営々と行ってきた数多くの公益的活動はかかる使命感によって支えられており,かかる弁護士の「文化」も給費制を根幹とする現行司法修習制度によって長い時間をかけて醸成されてきたものである。
 そして,これら法曹の活動の成果は,ひとしく社会へ還元されるものであるから,その費用は,法曹個々人の受益者負担という枠を遙かに超え,社会全体において負担されるべきものである。

 これに対し給費制を廃止して貸与制をとるとなれば,法曹を目指す者にこれまで以上の経済的負担が生じることは避けられず,次代の司法を支えるに相応しい資質・能力を備えた有為な人材が最初から法曹への道を諦める事態が予想され,その弊害は極めて大きい。
 また,司法修習生に対し,これまでどおり職業専念義務を課しながら,給費制を廃止することには制度として無理がある。

 当会は,以上の諸事情に鑑み,給費制の廃止が,司法修習の社会的役割と公益性を減退させ,ひいては法の支配をも危うくすることを危惧するものである。
 そのため,政府・国会・最高裁判所に対し,法曹養成制度における財政支援のあり方について再検討するとともに,司法修習生に対する給費制を継続させる措置を執ることを強く求めるものである。

2009年(平成21年)10月22日
 秋田弁護士会
   会長 伊 勢 昌 弘

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