少年法「改正」法案に反対する会長声明

2008年3月17日 公開
 本年3月7日に国会に提出された、少年法の一部を改正する法律案は、①一定の場合に犯罪被害者等による少年審判の傍聴を認めると共に、②犯罪被害者等による記録の閲覧・謄写の要件を緩和することを主たる内容としている。しかし、同法案には、  下記に述べるような重大な問題が存在することから、本法案には反対の意思を表明する。

1 犯罪被害者等による少年審判の傍聴を認める点について
 本法案は、被害者等の傍聴を許す家庭裁判所の判断基準について「少年の年齢 及び心身の状態、事件の性質、審判の状況その他の事情を考慮して相当と認めるとき」としている。しかし、これでは、少年の更生の観点から相当とはいえない場合にまで犯罪被害者等の審判傍聴を許すという運用になりかねず、問題である。
 そもそも少年審判は、事件からそれほど時間を経過していない段階で行われるものであることから、少年の反省を深める機会が必ずしも十分とはいえないことは関係者の了解するところであって、そのような中でも少年に発言を促し、事件の内容や少年の認識などの点について聴取し、「懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促す」(少年法22条)ことができるようにすることを目的としている。しかし、犯罪被害者の傍聴を認めるとすれば、年齢的にも未熟な少年が、犯罪被害者等の目を気にするあまり発言を控えることになりかねず、その結果間違った事実認定が行われる危険があると共に、表層的な反省の態度を示すにとどまってしまうなどの事態が危惧され、少年審判の目的を達成することができないおそれがある。
 また、このように時期的にも早い段階での傍聴は、被害者の心情を害する危険も存在するのであって、実際にも、本年3月4日には、大阪で逆送された刑事事件の公判で遺族が少年に暴言を吐き、あまつさえ暴力もふるった事件があったばかりであり、上記弊害の蓋然性は極めて高いといえる。
 犯罪被害者が事実を知りたいという心情には配慮する必要があるが、必ずしも審判傍聴という方法ではなく、例えば家庭裁判所調査官が説明するなどという、より被害者の心情に配慮した方法なども考えられるところであって、審判の被害者傍聴はその弊害の方が大きいというべきである。

2 犯罪被害者等による記録の閲覧・謄写の要件を緩和する点について
 法案は、従前の法律記録の閲覧・謄写に関する規定のあり方を逆転し、原則としてこれを公開するものとする内容になっている。しかし、これでは、少年の身上経歴等の少年のプライバシーに関わる事項まで閲覧謄写の対象となり、少年のプライバシーが侵害されるだけではなく、その後の少年の更生を困難にしかねない。
 また、近時マスメディアが過剰な報道を繰り広げる事態も生じており、このような改正の結果、被害者がマスメディアから過剰な取材を受け、個人情報が漏出し、思わぬ利用のされ方をする危険性があることに鑑みるならば、その弊害は大きいものと言わなければならない。他方で、現状のもとでも正当な理由がある場合であって、裁判所が相当と認めるときは閲覧・謄写が可能なのであるから、被害者等の権利を守るという点は現状の仕組みをより丁寧に被害者等に知らせることや、各種支援制度の拡充をすることによって達成することが可能である。

 よって、上記の問題点を含む本法案に対しては、強く反対するものである。

2008年(平成20年)3月17日
 秋田弁護士会
   会長 木 元 愼 一

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