秋田弁護士会

最低賃金の大幅な引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明

2022年6月24日 公開

1 現在の秋田県の地域別最低賃金は、1時間822円(2021年10月1日効力発生)であるが、この金額では、1日8時間、月に22日間働いた場合、賃金は1か月で14万4672円、年間でも173万6064円にしかならない。
我が国の最低賃金制度は、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定等に資することを目的としている(最低賃金法1条)。
最低賃金を決める上で重要な要素は労働者の生計費(生活のために必要な費用)であるが、最近の調査によれば、単身の若者の最低生計費の維持に必要な賃金は時給1500円程度であるとされている。したがって、上記の最低賃金の水準は労働者の生計費に対して絶対的に不足している。
最低賃金制度をセーフティーネットとして実効的に機能させるためには、最低賃金の大幅な引上げが急務である。
2 秋田県の地域別最低賃金は、前年から30円の引上げとなったものの、依然として全国加重平均である1時間930円を大きく下回っており、地域間格差の是正には全く至っていない。
最近の調査結果によれば、地方では、都市部に比べ住居費は低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されることから自家用車の保有が余儀なくされるため、地方と都市部の最低生計費には地域間格差がほとんど存在しないことが判明している。したがって、地域間での最低生計費の差を前提とした地域別最低賃金制度はその立法事実を欠いていると言わざるを得ない。
また、秋田県のレポートによれば、秋田県は2040年には全産業合計で約11万人の労働力不足に陥るとの推測がなされており、同県が本年3月に策定した「新秋田元気創造プラン」でも、賃金水準格差は人口の社会増減に直結する要因と指摘されている。   
このように、地方において、生産年齢人口の流出を防ぎ、企業の人材を確保し発展させていくためにも、最低賃金の地域間格差を是正することが必要である。
諸外国と比較しても、地域別最低賃金制度を導入している国は稀であり、イギリスでは1999年に廃止されたが、地方企業の倒産や失業者の増加といった問題は特段発生しなかった。
政府は地域間賃金格差を早急に是正するために、地域別最低賃金制度の存在意義から根本的に見直すべきである。
3 一方で、コロナ禍における経済停滞の長期化、ロシアのウクライナ侵攻や円安の影響等による原材料コストの増加等により企業の経営状態が悪化する中で、企業の存続のため最低賃金引上げの凍結を求める意見もなお強い。
しかし、欧米をはじめとする諸外国では、コロナ禍でも最低賃金の引上げを実現しており、我が国においてそれが不可能である理由はない。
そして、企業が最低賃金の引上げに対応できるようにするために、新型コロナウイルス感染症拡大によりなお影響を受けている企業への支援、税金や社会保険料の減免措置、貸付返済の猶予期間延長のほか、最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策である「業務改善助成金」制度の抜本的な改革が必要である。
4 以上より、当会は、労働者の健康で文化的な生活の確保を実現するとともに秋田県の地域経済の健全な発展を持続させるため、秋田地方最低賃金審議会に対し秋田県の地域別最低賃金の大幅な引上げを答申することを求めるとともに、中央最低賃金審議会に対し地域間格差を縮小しながら全国全ての地域において最低賃金の引上げを答申することを求めるものである。

2022年(令和4年)6月24日
 秋田弁護士会
  会長 松本 和人

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