秋田県環境影響評価条例に関する意見書
秋田県環境影響評価条例に関する意見書
令和3年8月3日
秋田県議会 御中
秋田県議会各会派 御中
秋田県知事 殿
秋 田 弁 護 士 会
会長 山本 隆弘
第1 意見の趣旨
1 秋田県環境影響評価条例を改正し、配慮書手続を導入すべきである。
2 秋田県環境影響評価条例の対象事業に、風力発電所、太陽電池発電所、送電線を加えるべきである。
第2 意見の理由
1 配慮書手続の導入について
環境影響評価法では、配慮書手続が導入されている。ここに、環境影響評価法の配慮書とは、事業の早期段階における環境配慮を図るため、第1種事業を実施しようとする者が、事業の位置・規模等の計画の立案段階において、その事業の実施が想定される1又は2の区域において、環境の保全について適正な配慮をするべき事項について検討を行い、その結果をまとめたものをいう。なお、第2種事業を実施しようとする者は、配慮書手続を任意で実施することができるとされている。方法書手続に先行して行われる配慮書手続は、事業の位置や規模等に関する複数案について環境影響の比較検討を行うことにより、事業計画の検討の早期の段階において、より柔軟な計画変更を可能とし、環境影響の一層の回避・低減につながる効果を期待され、平成9年の立法当初に規定されていなかったものの、平成23年4月の改正により導入されたものである。 環境影響評価手続は、法律に基づくものだけではなく、各地域の環境保全のために重要な役割を果たすべく、地方公共団体も条例により独自の環境影響評価手続を定めることができる。秋田県でも、秋田県環境影響評価条例が制定され、平成13年1月4日に施行されている。しかし、秋田県環境影響評価条例には、配慮書手続が整備されていない。 複数案について環境影響の比較検討を行い、早期に柔軟な計画変更を可能とすることで環境影響の一層の回避・低減を図るべきことは、秋田県環境影響評価条例で対象事業とされているものにも等しくあてはまる。また、秋田県以外の22都道府県で既に環境影響評価条例に配慮書手続が整備されており、東北地方では、山形県が平成29年12月に山形県環境影響評価条例の一部改正により導入している。 かように、環境影響評価法で導入されただけでなく、全国的に配慮書手続の環境影響評価条例への導入が進められていることを踏まえれば、秋田県環境影響評価条例にも速やかに配慮書手続を導入すべきである。
2 対象事業について
(1) 秋田県環境影響評価条例の現状 秋田県環境影響評価条例は、対象事業として事業用電気工作物(発電用のものに限る。)の設置又は変更の工事の事業を規定する(秋田県環境影響評価条例別表第5号)ものの、該当する発電所は、水力発電所、火力発電所、地熱発電所のみである(秋田県環境影響評価条例施行規則別表第1、第5号)。 このため、秋田県環境影響評価条例に基づいて太陽電池発電所、風力発電所に関する環境影響評価が行われるのは、工場・事業場用地造成事業として一般地域で面積75ha以上、特定地域で面積50ha以上の要件に該当する場合に行われるに過ぎない。
(2) 国及び他の道府県の状況 地球温暖化対策推進の観点から再生可能エネルギーに注目が集まり、平成24年に固定価格買取制度が創設されて以降、全国的に風力発電所や太陽電池発電所の設置が急激に増加した。これに伴い、発電所が設置される場所の周辺住民の生活環境への影響が危惧され、環境影響評価法では、風力発電所について平成24年に、太陽電池発電所について平成30年に対象事業とされた。 秋田県以外の道府県でも風力発電所や太陽電池発電所を条例に基づく環境 影響評価の対象事業としており、風力発電所は32道府県、太陽電池発電所は26道県で明示的に対象事業とされている。
(3) 秋田県環境影響評価条例での対象事業化について 風力発電は、土地改変による動植物・生態系への影響や水の濁りの発生のみならず、騒音等の健康被害、鳥類への影響、景観への影響も問題とされており、造成事業と関連しない環境影響が指摘されているため、工場・事業場用地造成事業としての環境影響評価では不十分である。 太陽電池発電も、土砂流出や濁水の発生のみならず、景観への影響や動植物の生息・生育環境の悪化等が問題点として指摘されている。造成を伴わない発電所の設置でもかかる問題点は生じることから、敷地面積や出力も対象事業の要件として導入することが求められる。 そこで、風力発電所、太陽電池発電所のいずれも対象事業と明示すべきである。なお、対象事業の規模要件は、地域的特性を踏まえて決定されるべきものであるが、風力発電所の規模については、29府県が出力1万kw未満(出力7,500kw以上、出力5,000kw以上、出力1,500kw以上等)としている状況の下、出力1万kw以上とされていた法律の対象事業要件が5万kwに引き上げられることについて令和3年10月に措置するとされていることを踏まえ(規制改革実施計画(令和3年6月18日、閣議決定))、出力1万kw以上5万kw未満の風力発電所設置計画が秋田県に集中することを防止すべき観点から、一般地域において1万kw未満の出力要件を早急に設けることが望ましいと考える。 さらに、送電線も対象事業とすべきである。送電線は電気事業法上、発電のための設備ではなく、発電事業を対象とする現在の法の枠組みでは対象事業実施区域に含めることが難しいとされる。しかし、風力発電や太陽電池発電、地熱発電などの再生可能エネルギーによる発電事業は、未開発の地域に立地されることが多く、動植物や景観等に及ぼす影響が大きい。このため、附帯する送電鉄塔や既存送電線までの経路も含め、条例において明確に環境影響評価の対象とすることが必要である。既に9都県で対象事業とされており、東北地方では岩手県が第2種事業としてであるが、特別地域において対象事業としている。 再生可能エネルギー資源が豊富とされる秋田県では、既に自然公園付近に地熱発電所が設置され、自然公園内に地熱発電所を設置するための環境影響評価手続が進行している。風況に恵まれているともされ、海洋再生エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用促進に関する法律による手続が全国に先駆けて進行しており、秋田県では山間部や沿岸部などの未開発地域への発電所の設置により動植物や景観等に及ぼす影響を考慮すべき必要性が高い。そこで、秋田県環境影響評価条例においても、送電線を対象事業とすべきである。