秋田弁護士会

最低賃金の大幅な引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明

2020年7月3日 公開

1 現在の秋田県の地域別最低賃金(以下「最低賃金」という。)は,1時間790円(2019年10月3日効力発生)であり,前年から28円引き上げられたものの,全国加重平均である1時間901円を大きく下回っている。
2 我が国の最低賃金制度は,賃金の最低額を保障することにより,労働条件の改善を図り,もって労働者の生活の安定等に資することを目的としている(最低賃金法1条)。
 ところが,秋田県の現在の最低賃金では,1日8時間,月に22日間働いた場合,1か月の賃金額は13万9040円であり,年間でも166万8480円にしかならない。この賃金額は,いわゆるワーキングプアの収入水準である年収200万円にも遠く及ばず,労働者が生活の安定を確保することは難しい。
したがって,最低賃金制度をセーフティーネットとして実効的に機能させるためには,最低賃金の大幅な引上げが急務である。
3 また,地域別最低賃金制度(最低賃金法第2章第2節)に基づく最低賃金の地域間格差が依然として大きいことも問題である。
 秋田県の最低賃金(1時間790円)を,最も高額な東京都の最低賃金(1時間1013円)と比べると,その間には223円もの開きがある。前述のとおり昨年と比べ最低賃金は引き上げられたものの地域間格差は昨年と同額であり依然として大きいままである。
 このような最低賃金の地域間格差により,賃金の高い都市部での就労を求めて秋田県から有為な人材が流出するおそれが高い。
秋田県人口問題対策プロジェクトチームが2015年3月にまとめた「秋田の人口問題レポート」によれば,秋田県は,2040年には全産業合計で約11万人の労働力不足に陥るとの推測がなされている。ただでさえ少子高齢化による労働力不足が深刻である秋田県において,賃金格差による労働力の流出は絶対に防がなければならないのであって,最低賃金の地域間格差の解消は喫緊の課題である。
最低賃金法において1968年に地域別最低賃金制度が採用されてから約50年が経過しているが,労働組合や研究者による2017年の調査によれば,都市部と地方との間で労働者の生活に最低必要と考えられる費用はほとんど差がないことが明らかになってきている。このように,地域別最低賃金制度を採用する立法事実が失われてきていることが指摘されている今日においては,全国一律の最低賃金を実現すべきであり,秋田県として現在の都市部の最低賃金に早急に近づけなければならない。
4 他方,昨今の新型コロナウイルスによる経済的影響による中小企業の経営悪化が深刻化している状況で,中小企業の存続のため最低賃金の引上げの凍結を求める意見もある。
しかしながら,労働者の生活を守り,新型コロナウイルスによる経済的影響を乗り越え,経済を活性化させるためにも,最低賃金の引上げを後退させてはならない。
そもそも,最低賃金を決める要素で重要なのは「労働者の生計費」(最低賃金法9条2項)である。
「労働者の生計費」とは,労働者の生活のために必要な費用をいうところ,最低賃金制度が労働者の生活の安定を第一の目的としていることから,最低賃金の決定の際の基準として当然に考慮されなければならないとされている。そして,企業の賃金支払能力によってこの労働者の生計費が変わるわけではなく,前述のとおり,年間166万8480円の賃金額では労働者の生計費が絶対的に不足している現実は変わらない。
また,今般の緊急事態下において,社会のライフラインを担う小売店の店員や運送配達員,介護従事者,保育士などの中には,最低賃金付近の低賃金で働く労働者が多数存在するのが現状である。社会のライフラインを維持するためにも,これらの労働者の生活の安定は不可欠であり,そのためにも最低賃金の引上げが急務である。
最低賃金の引上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対しては,新型コロナウイルス感染拡大に備えた支援策が拡充されているところであるが,政府は,長期的継続的に中小企業支援策を強化すべきであり,最低賃金の引上げが困難な中小企業のための社会保険料の減免や減税,補助金支給等の中小企業支援策の検討を進めるべきである。
そして,経営の合理化をはかるためには労働生産性の向上によるべきであり,政府が策定した「最低賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援事業」を実効的に推進していくことが急務である。
5 以上により,当会は,労働者の健康で文化的な生活の確保を実現するとともに秋田県の地域経済の健全な発展を持続させるため,秋田地方最低賃金審議会に対し秋田県の地域別最低賃金の大幅な引上げを答申することを求めるとともに,中央最低賃金審議会に対し地域間格差を縮小しながら全国すべての地域において最低賃金の引上げを答申することを求めるものである。

2020年(令和2年)7月3日
 秋田弁護士会
   会長 山 口 謙 治

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