秋田弁護士会

憲法記念日にあたっての会長声明

2020年5月7日 公開
 1947年(昭和22年)5月3日に日本国憲法が施行されてから73年が経過し、令和に入って2回目の憲法記念日を迎えました。
 日本国憲法は、立憲主義を基本理念とし、基本的人権の尊重、国民主権及び恒久平和主義を基本原理とします。これらの基本原理は、人類普遍の原理であり、とりわけ恒久平和主義は、多くの国民が犠牲となった戦争を二度と繰り返さないという決意に基づくものであり、護り続けていかなければなりません。
 2018年(平成30年)3月、自由民主党は、4項目の憲法改正素案を公表し、憲法改正を目指しています。その中には、新たに憲法9条の2を新設して自衛隊を明記する案(以下「自衛隊明記案」といいます。)が示されています。 
 自衛隊明記案について、これまで当会では、「必要な自衛の措置」の内容に憲法上の統制が及ばず、立憲主義に反するおそれがあることや、集団的自衛権行使が広く容認される解釈が可能となり、恒久平和主義の意義を大きく後退させるおそれがあることを指摘してきました。
 さらに、安倍晋三首相は、「今ある自衛隊をそのまま憲法に記載するだけであり、自衛隊の実態は何も変わらない」等と説明していますが、本当に何も変わらないのか、慎重な検討が必要です。
 自衛隊を憲法に明記すれば、自衛隊は、国会、内閣、裁判所、会計検査院と並ぶ憲法上の機関に位置付けられることから、新たな人権制約の根拠となる可能性が高くなります。例えば、防衛機密の保護を理由に表現の自由や知る権利が大幅に制約され、自衛隊に対する民主的統制が及ばなくなるおそれがあります。
 そして、自衛隊明記案は、集団的自衛権の行使を可能とした安全保障関連法改正の延長上にあることや、以下に述べる同法改正後の政府の自衛隊の海外派遣の実情をも踏まえて考える必要があります。
 政府は、2019年(令和元年)12月27日、日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集をするため、自衛隊の護衛艦及びP3C対潜哨戒機を中東アデン湾等へ派遣する旨閣議決定し、これに基づいて、本年1月10日、自衛隊に派遣命令を出し、同月11日、哨戒機2機が那覇空港基地を出発し、2月2日、護衛艦たかなみは横須賀基地を出発しました。政府は、この派遣の根拠を、防衛省設置法第4条第1項第18号の「調査及び研究」であると説明していますが、自衛隊の任務等は「自衛隊法の定めるところによる」とされており(防衛省設置法第5条)、防衛省設置法自体を派遣の根拠とすることはできません。また、その自衛隊法は、自衛隊の調査研究について対象となる分野を限定的に定めており(第25条、第26条、第27条及び第27条の2など)、中東海域へ護衛艦等を派遣することによる情報収集のような活動はこれに含まれていません。したがって、今般の自衛隊の中東海域への派遣は、法律に基づかずに実施されたものであり、法治主義に反するものといわざるを得ません。
 このように、自衛隊の運用に関して法治主義に反することを厭わない政府の姿勢が、憲法に自衛隊を明記することでさらに助長されることにならないか懸念されるところです。
 当会は、本年の憲法記念日にあたり、自衛隊明記案及び今般の自衛隊の中東海域派遣の問題点を指摘するとともに、改めて日本国憲法の基本理念と基本原理を確認し、これを堅持するための活動に尽力する決意をしたことを表明します。
                           2020年(令和2年)5月3日
                           秋田弁護士会     
                           会長  山 口 謙 治

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