秋田弁護士会

地熱発電所建設に関する意見書

2016年8月30日 公開

地熱発電所建設に関する意見書

 

平成28年8月30日

秋田県知事殿

    秋田弁護士会

    会長  外山 奈央子

 

第1 意見の趣旨

1 県知事は,県内で実施される新たな地熱発電所建設にかかる環境影響評価の手続においては,4キロメートル以内に既設及び建設計画中(建設のために調査している場合を含む。以下同じ。)の地熱発電所がある場合には,その施設との複合的な環境影響を考慮し,調査,予測及び評価することを求める意見を提出すべきである。

2 栗駒国定公園内において計画中の各地熱発電所建設に関連して自然公園法第20条第3項の処分をする場合には,上の岱地熱発電所あるいは建設計画中の地熱発電所との複合的な環境影響も考慮,検討した上で判断すべきである。

 

第2 意見の理由

1 地熱発電所建設をめぐる現状

平成24年3月27日に環境省自然環境局長通知「国立・国定公園内における地熱発電の取扱いについて」(以下,「環境省通知」という。)が発出された。かかる規制緩和が実施されたことを受け,栗駒国定公園内(小安地域,木地山・下の岱地域)で地熱発電所建設に関する調査が開始されたことを契機に,県内外で地熱発電開発が注目を浴びることとなった。

そこで,自然公園内での地熱発電所建設が自然公園制度に沿うものであるのか,当会でも資料を収集し施設見学や貴庁との意見交換などで調査した。そうしたところ,上記各地熱発電所建設が計画されている湯沢地域には,既に稼働している上の岱地熱発電所や,既に環境影響調査を終えて建設着手の段階にある山葵沢地熱発電所があるが(ただし,上の岱地熱発電所と山葵沢地熱発電所は国定公園外に所在する),これら地熱発電所(計画地域)間の距離は次のとおりであることが判明した。

① 小安と木地山・下の岱の各建設計画地域間:約3キロメートル

② 木地山・下の岱地域と上の岱地熱発電所間:約3キロメートル

③ 上の岱と山葵沢の各地熱発電所間:約3キロメートル

④ 山葵沢地熱発電所と木地山・下の岱地域間:約5キロメートル

⑤ 小安の建設計画地域と山葵沢地熱発電所間:約8キロメートル

しかも,以上のすべての既存・計画中の施設(あるいは地域)が半径4キロメートルの円内にあることも判明した。

さらに,貴庁との意見交換会において,湯沢地域では,報道されている上記各建設計画の外にも地熱発電所建設を計画している企業が存在していることが判明した。

2 複合的な環境影響評価の必要性

地熱発電所は,再生可能エネルギーとしての有用性はあるものの,一方で火山活動のある地域に地熱資源が偏在していることから一定の地域内に複数の発電所が建設されやすいという特殊性がある。したがって,それら既存施設や計画中の施設の近接あるいは集中程度によっては,景観や自然環境等に対するそれら施設の複合的な影響に対する注意や考慮が必要となると解される。特に,それが国定公園内であれば,自然公園法の目的とする「優れた自然の風景地の保護」の観点から上記複合的な影響が考慮されるべきである。

まして,国立・国定公園内での地熱開発の規制を緩和した環境省通知は,約4ヶ月という短期間のうちに4回も開催された検討会を経て平成27年10月2日に改正され,第1種特別地域に対する傾斜掘削を認めたり,建築物の高さ制限について13メートルにとらわれずに運用できるようにするなど,さらに規制緩和が進められていることからすると,今後一層地熱発電所施設建設が集中して計画されることが予想され,施設間の複合的な影響の考慮は重要と解される

したがって,地熱発電所施設の建設計画についても,既存あるいは計画中の施設と近接している場合には,それらの施設との複合的な環境影響を考慮し,調査,予測及び評価がされるべきである。

具体的にどの程度をもって「近接」とするかは,施設のある(あるいは計画されている)地域の特性によるであろうが,湯沢地域でいえば,山葵沢地熱発電所建設に際して実施された環境影響評価では,哺乳類相,鳥類相,両生類相等の調査範囲が対象事業実施区域及びその周辺2キロメートルに設定されていることからして,この調査範囲が重なる距離,つまり4キロメートルの距離内に複数の施設がある場合には「近接」と評価すべきと解される。なぜなら,上記調査範囲が重なる場所では,1の施設による環境影響は軽微であっても,複数の施設による環境影響は異なる評価となる可能性が考えられるからである。

 3 湯沢地域における各地熱発電所施設(計画中を含む)の近接程度

以上をもとに,上述の湯沢地区の既存・建設着手段階の地熱発電所施設と計画中の施設間の距離関係をみると,いずれの既存・計画中の施設も3キロメートル離れたところに他の既存・計画中の施設があり,互いに「近接」している。特に,上の岱地熱発電所は山葵沢地熱発電所と木地山・下の岱地熱発電所計画地域の両方と近接しており,木地山・下の岱地熱発電所計画地域は上の岱地熱発電所と小安地区地熱発電所計画地域の両方と近接している。しかも,木地山・下の岱と小安の建設計画地域は国定公園内で近接している。

このように,4つの既存・計画中の地熱発電所が互いに近接している状況にあることからすれば,複数の施設による生物,特に動物相への影響が懸念されるだけでなく,地熱発電所が密集する異様な光景が生じることによって自然公園の景観が著しく障害される可能性が大である。

 4 今後必要とされる対応について

そこで,現在計画中の小安及び木地山・下の岱における地熱発電所建設計画がいわゆる第3段階に移行して環境影響評価を実施する際には,上の岱地熱発電所あるいは互いの建設計画中の地熱発電所との複合的な環境影響も調査,予測及び評価すべきである。

また,少なくとも今後は,上記湯沢地区の2つの地熱発電所建設計画はもとより,県内で実施される新たな地熱発電所建設にかかる環境影響評価においては,4キロメートル以内に既存あるいは計画中の施設がある場合には,その施設との複合的な環境影響を考慮し,調査,予測及び評価することを求める意見を提出すべきである。

さらに,栗駒国定公園内において計画中の各地熱発電所建設に関連して自然公園法第20条第3項の処分をする場合には,上の岱地熱発電所あるいは互いの建設計画中の地熱発電所との複合的な環境影響も考慮,検討した上で判断すべきである。


                                    以上

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