秋田弁護士会

個人保証の原則廃止等を求める意見書

2013年8月27日 公開
個人保証の原則廃止等を求める意見書

第1 意見の趣旨
1 個人保証を原則として廃止すること
2 個人保証の例外は,経営者保証など極めて限定的な場合のみとすること。
3 例外として許容される個人保証においても,次に掲げる保証人保護の制度を設けること。
(1)現行民法に定める貸金等根保証契約における規律(民法465条の2ないし465条の5)を,個人が保証人となる場合のすべての根保証契約に及ぼすものとすること。
(2)債権者は,保証契約を締結するときは,保証人となろうとする者に対する説明義務や債務者の支払能力に関する情報提供義務を負い,債権者がその義務に違反した場合は,保証人は保証契約を取り消すことができるものとすること。
(3)債権者は,保証契約の締結後,保証人に対し,主たる債務者の遅滞情報を通知する義務を負うこと。
(4)過大な保証を禁止する規定や保証債務の責任を減免する規定を設けること。

第2 意見の理由
1 個人保証は原則廃止されるべきであること
(1)保証被害の実態
保証契約は,危険の存否及び範囲の判断が比較的容易な対価的な取引と異なり,契約の時点における保証債務の現実化が未必的であり,現実化した場合の結果の大小を正確に予測することが困難であるため,現実に履行を求められるリスクの大きさや履行を求められた場合の責任の重さを十分に理解しないまま安易に保証契約を締結する場合が多いことが指摘されている。それに加えて,個人による保証の場合は特に,親類や知人からの依頼といった個人的な情義から,仮に責任の重さを理解したとしても断ることが心理的に容易ではないといった特徴が指摘されている。
その結果として,個人の保証人が,契約時には想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ,生活の破綻に追い込まれる事例が生じていることが少なくない。日本弁護士連合会編「2011年破産事件及び個人再生事件記録調査」によれば,破産においては約19%,個人再生においては約9%が,負債の原因の1つとして保証債務を挙げている。当会会員が受けている債務整理相談の中でも,いわゆる「セーフティネット貸付」での貸付を受ける条件として徴求された連帯保証人が,主債務者の破綻によって保証債務の履行を求められ相談に訪れた,というケースが複数報告されている。また,(社)中小企業研究所が「経営者が倒産するにあたって最も心配したこと」を調査したところ,「保証人への影響」を挙げた回答が「従業員の失業」に次いで多いという結果も出ている(事業再挑戦に関する実態調査,2002年)。
さらに,わが国の自殺者は,警察庁の発表によれば昨年ようやく3万人を下回ったものの依然として深刻な状況にあるが,この主要な原因・動機の1つが「経済・生活問題」である。政府が2009(平成21)年11月27日付けで示した「自殺対策100日プラン」では,連帯保証人制度・政府系金融機関の個人保証(連帯保証)について,「制度・慣行にまで踏み込んだ対策に向けて検討する」とされている。自殺者の中には,自らが保証人となって生活破綻に陥った場合のみならず,主債務者が他の保証人に迷惑をかけることを苦にしたという場合も相当程度あるであろうことを踏まえたものといえる。
なお,東日本大震災後に運用が開始された「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」でも,保証債務については,「主たる債務者が通常想定される範囲を超えた災害の影響により主たる債務を弁済できないことを踏まえ」原則として個人の保証人に対する保証履行を求めないとしている。未曾有の災害を原因とした主債務者の支払い不能によって,保証人にも予期せぬ債務負担が発生し,それにより生活破綻の被害が拡大していくことが懸念されたものであると考えられる。
保証被害の実態に鑑みると,保証制度,とりわけ個人保証について抜本的改正をはかる必要性が高いことは明らかである。
(2)金融実務の慣行も確立されつつある
これについては一方で,貸し渋りへの懸念や,主債務者の負担増などを勘案しての政策的判断も無視できないという指摘もある。
しかし,たとえば2006(平成18)年以降,各地の信用保証協会は,保証申込みのあった案件について,経営者本人以外の第三者を保証人として求めることを原則として行っていない。また,近時の,信用保証協会ほか公的金融機関が貸付に際して第三者保証人を徴求した割合をみると,日本政府金融公庫では0%,商工組合中央金庫は0.09%,そして信用保証協会は0.12%しかなくなっている(中小企業庁2011(平成23)年4月「中小企業の再生を促す個人保証等の在り方研究会報告書」)。
民間金融機関に対しても,金融庁は2011(平成23)年以降の「主要行等向けの総合的な監督指針」および「中小・地域金融機関向けの監督指針」において,「経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立」を明記し,これに沿った対応を求めている。
このように,現在の金融実務では,公的・民間双方の金融機関で,第三者保証人を徴求することが原則として行われなくなり,人的保証に頼らない実務慣行が確立されつつあることがわかる。この実務運用を,個人保証の禁止という形で実体法上も明文化していくべきである。

2 例外的な許容と,適用範囲の限定
もっとも,主債務者が会社である場合のいわゆる経営者保証については,現時点では,信用を補う手段として保証が実務において重要な機能を有していること,これを直ちに廃止することとなれば社会的な影響が大きいと考えられることから,例外的に許容されうるといえる。
ただ,経営者保証についても,経営者が多額の保証債務を抱えることは再挑戦への阻害要因となり,また,中小企業の事業承継の妨げになるといった意見も指摘されているところであるから,将来的な見直しは検討されるべきである。また,経営者保証以外に例外的に個人保証が許容される場面がありうるとしても,その範囲を決定するにあたっては,個人保証を原則廃止とすべき背景を踏まえ,極めて限られたもののみとすべきである。

3 保証人保護の必要性
上記2のように,例外的に個人保証が許容される場合であっても,保証による被害を防ぐためには,保証人保護の方策を整えることが必要である。
現行民法では,貸金等根保証契約以外の根保証契約においては,極度額や保証機関の定めに関する規律が存在しないため,保証人が予期しない過大な保証債務の履行を請求される危険性が指摘されている。根保証の危険性は貸金等根保証契約に限らないのであり,個人が保証人となる根保証契約全般について,現行民法の貸金等根保証契約に関する規制を広く及ぼすべきである。
また,保証は,その情義性・無償性・軽率性・結果の不可視性などから,トラブルの多い契約類型であり,保証に関する紛争では,保証人が保証の意味を知らなかった,あるいは主債務者の資力が十分であって保証を履行することはないと誤信していたなどの事情が背景となることが多々ある。そこで,例外として許容されるとしても,債権者は保証契約締結にあたり,保証人となる者に対し,説明義務及び情報提供義務を負うものとすべきであり,これら義務の実効性を確保するため,義務違反の効果として保証契約の取消権を認めるべきである。
さらに,現行法上,保証契約締結後においては,主債務が履行遅滞となった場合には債権者は保証人に対しても遅延損害金や期限の利益喪失を主張できることになるが,主債務の履行状況を知るすべを持たない保証人にとってはこれらの主張は不意打ちであり,保証人には予期せぬ不利益となってしまう。そこで,保証人に主債務の遅滞からくる事態への対応を取る機会を確保するため,債権者に対し,保証人への主債務の遅滞情報の通知や催告の義務を課し,これを怠った債権者は,保証人に対し遅延損害金や期限の利益の喪失を主張できないものとすべきである。
このほか,保証人となった者が過大な債務負担を強いられて自らの生活基盤を破壊され,最終的には自己破産の申立をせざるを得なくなったり,あるいは,自殺に追い込まれたりすることを回避するため,過大な保証を禁止する規定や,責任を減免する規定を設けることが適当である。

4 法制審議会の議論状況
法制審議会の民法(債権関係)部会は,2009(平成21)年11月から民法(債権関係)の改正に関する検討を始めているが,同部会は2013(平成25)年3月11日,中間試案を公表した。
この中で,個人保証の論点については,①「貸金等根保証契約」及び「債務者が事業者である貸金等債務を主たる債務とする保証契約」であって,保証人が個人である場合については,いわゆる経営者保証を除いて無効とするかどうかについて引き続き検討するとされている。また,②貸金等根保証契約に関する規律(民法465条の2ないし同条の5)については,極度額及び元本確定事由の規律の適用範囲を保証人が個人である根保証契約一般に拡大することと,元本確定期日の規律の適用範囲も同様に拡大するかについて引き続き検討することが提案され,その提案についての説明の中では,求償権の保証についてもこれらの検討を踏まえた所要の見直しを行うことになるという考え方が示されている。
そして,保証人保護の方策としてさらに③債権者による契約締結時の説明義務,情報提供義務,主たる債務の履行状況に関する情報提供義務を課すかどうか,そのほか保証人が個人である場合の責任制限(裁判所による減額,保証人の財産・収入との比例原則)を設けるかどうかについてそれぞれ引き続き検討するとされている。
法制審民法(債権関係)部会が個人保証の問題について検討を重ね,これを現在よりも大きく制限する方向で検討し中間試案として公表したことは評価できる。ただし,この中間試案でも,例えば債務者が非事業者である場合では個人保証が許容されるところ,深刻な保証被害が発生するのは債務者が事業者である場合に限られないのであって,保証被害の不安が払拭されるためにはまだ十分とは言い難い。意見の趣旨記載のとおり個人保証の例外は極めて限られた場面のみとすべきであり,その上でさらに,保証人保護の拡充がはかられるべきものである。

5 まとめ
当会では,2007(平成19)年に発表した意見書(「多重債務者相談マニュアル」(案)に対する意見。当会ホームページに掲載中)の中で,貸付に際して保証人をつけることの弊害についてすでに述べている。当該意見書発表から6年が経過したが,その弊害のおそれには何ら変わりはない。このことについて当会は早くから警鐘を鳴らしてきたところである。
日本弁護士連合会は2012(平成24)年1月,保証制度の抜本的改正を求める意見書を発表し,東北弁護士会連合会も同年度の定期弁護士大会にて,個人保証の原則的な廃止等を求める決議を採択した。また,秋田県議会は2013(平成25)年3月7日,個人保証の原則廃止を求める意見書の提出についての請願を全会一致で採択しており,個人保証という制度自体を見直すべきとする要請はますます高くなっている。そして前記のとおり,金融実務を含む社会情勢は確実に,個人保証制度を必要としない流れに向かっている。法制審民法(債権関係)部会は中間試案を経て,要綱案とりまとめにむけた検討段階(いわゆる第3ステージ)に入っているが,今こそ,個人保証の原則禁止を実体法上も明確にし,保証被害の不安のない社会を実現すべきときである。
よって,当会は,「意見の趣旨」記載の意見を表明するものである。
以上

                                               平成25(2013)年8月27日
                         秋田弁護士会
                                                   会長  江   野    栄
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