秋田弁護士会

生活保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める会長声明

2013年5月23日 公開

政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定し、国会に提出したが、改正案は、いわゆる「水際作戦」を合法化すると共に、要保護者の生活保護申請をより一層萎縮させる効果を持つものであって、看過しがたい問題を含んでいる。

 

まず、現行生活保護法(以下「現行法」という。)は、保護の申請について書面によることを要求しておらず、申請意思が客観的に明白であれば口頭による申請も有効であるとするのが確立した裁判例であり、また、申請の際に、要否判定に必要な書類の提出も義務付けてはいない。

しかし、実際には、全国の福祉事務所の窓口において、要保護者が生活保護の申請意思を表明しても申請書を交付しなかったり、疎明資料の提出を求めて申請書の受理を拒否するという違法な運用(いわゆる「水際作戦」)が少なからず見受けられ、問題視されていたところである。

ところが、改正案第24条1項は、生活保護の申請は、「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書の提出をもってしなければならないとして要式行為化するばかりか、同条2項では、申請書に「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」として、要否判定に必要な書類の添付までも求めている。これでは、添付書類の不備等を理由として申請を受け付けないという、これまで違法とされてきた「水際作戦」による取り扱いを合法化することになり、要保護者の生活保護申請を断念させかねない。

また、改正案第24条8項は、保護の実施機関に対し、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けると共に、改正案第28条2項では、保護の実施機関が、保護の決定等にあたって、要保護者の扶養義務者等に対して報告を求めることができるとしている。

しかし、現行法下においても、保護申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知により生活保護を受けることを親族に知られてしまうことやその結果生じる親族間のあつれきを恐れ、申請を断念することが少なくない。改正案によって扶養義務者に対する通知が義務化され、調査権限が強化されることになると、要保護者の保護申請に対し一層萎縮効果を及ぼすことは必定である。
 こうした改正案に対する批判の高まりを受けて、厚生労働省は、「必要な場合は口頭申請も認める」、「書類の提出は保護決定まででよい」、「扶養義務者への通知は極めて限定的な場合に限る」などとして、従来の取扱いを変更するものではないとの弁明をし始めている。しかし、改正案の文言上、そうした解釈自体困難であるし、このような弁明自体が改正案の内容に正当性がないことを示している。

 

当会は、昨年(2012年)11月26日に、生活保護基準の引き下げに強く反対する会長声明を発し、生活保護基準の引き下げではなく、「本来、生活保護を利用できて然るべき人々が排除されている現状においては、むしろ、最後のセーフティーネットとされる生活保護制度の積極的な運用が期待され」ると述べたところであるが、今般の改正案は、そこで指摘した「本来生活保護を利用できてしかるべき人々」を、さらに利用から遠ざけてしまうもので到底容認できない。

よって、当会は、憲法25条の実現をはばむ内容をもっている改正案の廃案を強く求めるものである。

2013年(平成25年)5月23日
 秋田弁護士会
   会長 江 野   栄

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