秋田県暴力団排除条例(案)に対する意見
2010年12月27日 公開
平成22年12月27日
秋田県警察本部 刑事部組織犯罪対策課
条例制定準備班 御中
秋田弁護士会
会 長 狩 野 節 子
秋田県暴力団排除条例(案)に対する意見
第1 条例の制定に関する意見
暴力団は,暴力団対策法施行後,組織実態を隠ぺいし,市民生活や経済活動に深く介入し,資金獲得活動を巧妙化させている。秋田県においても,暴力団勢力が大きく減少することなく,暴力団員が不当要求行為等によって得た資金が組織の活動資金となっている実態が伺える。
このような情勢を踏まえると,県・県民・事業者・関係諸機関,諸団体の社会全体が一体となって暴力団を排除するという本条例案は,暴力団の市民社会への不当な介入を排除するために大いに意義がある。
したがって,本条例案の制定に賛成する。
第2 「1 基本理念・責務」について
上記のとおり,行政・県民等・関係諸機関・団体が連携協力の下に暴力団排除を進めることには大きな意義がある。そして,暴力団の排除は,地域住民や事業者といった県民の諸活動なしには成り立たないものである。
しかしながら,暴力団の排除は,決して地域住民や事業者が身を張って実現するものではなく,第一次的には県の責任のもとに実現されるべきものである。
したがって,本条例案においても,まず,県が暴力団排除の第一次的な責任を負う旨を明確に規定すべきである。
第3 「2 暴力団排除に関する県の施策」について
本県では,いまだ県民全体に暴力団排除の機運が高まっているとは言い難く,県は県民等に対し積極的な広報及び啓発活動を行うべきであるから,本条例案において県の広報及び啓発活動に関する規定を設けることに賛成する。
また,県は暴力団排除に向けた活動に立ち上がる県民等に対し,積極的な援助を行うべきであり,本条例案で援助の施策が規定されることについて賛成する。
しかしながら,県は,暴力団排除の第一次的な責任を負う以上,本条例案に規定される各施策以外にも,暴力団排除活動を行う県民等に対する財政的支援等,さらなる施策を行うべき立場にある。
したがって,本条例案においては,少なくとも,県が暴力団排除活動を行う県民等に対し財政的支援を行うことについて規定すべきである。
第4 「3 暴力団事務所の運営の禁止」について
暴力団事務所は暴力団の中枢的機能を担っており,それゆえこれに起因する様々な危険性を有している。また,一度暴力団事務所が設置されると,周辺住民が人格権に基いて暴力団事務所の使用差止を求めるなどしなければならず,事務所の排除に多大の時間と労力を要する。
したがって,一定の範囲内で暴力団事務所の運営を禁止する本条例案に賛成する。
しかしながら,本条例案のように運営行為のみを禁止するのではなく,開設行為をも禁止する規定に改めるべきである。
なぜなら,暴力団排除を実効あらしめるためには,暴力団事務所が継続的に機能する(そうなって初めて「運営」といえる。)まで禁止の効果が及ばないというのでは不十分であり,暴力団事務所が開設された時点,すなわち施設が暴力団の活動拠点として新たに機能しはじめた時点で禁止の効果を及ぼすべきだからである。
第5 「4 事業者が講ずべき措置」について
県民等が暴力団排除の一翼を担うことは大いに意義のあるものであるし,一部には暴力団の資金獲得活動に協力・関与する個人や集団が存在することから,事業者等が講ずべき措置を規定することに賛成である。
しかしながら,②【利益供与の禁止】については,かかる利益が暴力団員の資金源となっており,主に暴力団員からの働きかけを通じて利益供与に至っている実態に照らし,利益を受けることを独立して違法であると宣言する規範を打ち出すべきである。
したがって,暴力団員が利益の供与を受けることをも独立して禁止する規定を設けるべきである。
第6 「5 不動産の譲渡等をしようとする者の講ずべき措置」について
上記第4で述べたとおり,暴力団事務所は様々な危険性を有し,その排除にも多大の時間と労力が必要である。したがって,暴力団事務所となりうる不動産の供給を絶つことにより暴力団事務所の移設や新規開設を未然に防止する必要性は高いといえる。
他方,本条例案では,①【不動産譲渡等の禁止】に該当するのは暴力団事務所の用に供されることを知った上での譲渡等に限定されているし,②【不動産の譲渡等の契約に係る措置等】では努力義務が課されるにとどまるのであるから,到底,不当な人権制限とはいえない。
したがって,本条例案において上記①及び②の制限を設けることに賛成である。
第7 「6 義務違反者に対する措置等」について
「暴力団の威力利用の禁止」「利益供与の禁止」「暴力団事務所の用に供されることを知った上での不動産譲渡等の禁止」は,いずれもその実効性が確保されなければならないから,違反が疑われる者に対し報告又は資料の提出を求め,さらに勧告などの措置をとることができるとすることに賛成する。
しかしながら,法令遵守の実効性を確保するためには,更に進んで,これら報告の求めや資料提出の求め,勧告に従わないことといった事実があるときには,そうした違反の事実について公表できる制度を設けることが必要である。
なお,勧告に従わなかったことを公表する場合には,公表に先立ち弁明の機会を付与する等,行政手続法に準じた事前手続を踏む必要がある。
したがって,本条例案においても,義務違反者に対する措置として,手続規定の整備にも配慮しつつ,上記一定の場合に公表ができるという規定を設けるべきである。
以 上
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