民間競売手続の導入に反対する会長声明
2008年3月17日 公開
内閣府に設置された規制改革会議において、不動産競売手続の合理化、迅速化などのためとして、裁判所が関与しない競売手続(以下「民間競売手続」という。)の導入が検討されている。検討中の案は、アメリカの一部の州の制度を参考として、融資時に債権者と債務者、所有者との間で競売の実行方法を取り決め、実行時には民間オークション方式により売却を行う民間的競売手続を導入するというものである。この案によると、現行の裁判所による不動産競売手続において買受希望者の参考のために作成されている現況調査報告書、評価書、物件明細書(いわゆる三点セット)が作成されず、売却価格の下限規制も設けることなく、競売手続が実施されることとなる。
しかし、民間競売手続を導入する必要性は存在しない上、同手続はあまりに債権者である金融機関の便宜を図り、債務者等の利益を害するなど多くの問題があるため、その導入に強く反対する。
1 民間競売導入の必要性がないこと
我が国の競売手続では、かつて、暴力団をはじめとする反社会的勢力や悪質な競売ブローカーなどによる執行妨害が横行し、迅速な執行が阻害され、売却価額も低落するなど債権者・債務者双方に不利益を与えてきた。そこで、平成8年から平成16年の5回にわたる法改正により、不当な執行妨害を排除し、透明かつ迅速な手続とするための改善がなされてきた。その結果、平成18年度には、不動産競売事件の約4分の3が申立から半年以内に売却実施処分に付され、売却率も全国平均で約81%、東京、大阪においては100%に近い数字となっている。このような状況下において、現行の競売手続の外に民間競売手続を導入する必要性は見当たらない。
2 反社会的勢力による執行妨害が増えるおそれ
暴力団などの反社会的勢力による不当な執行妨害を排除することができたのは、上記法改正だけではなく、裁判所という司法機関が手続を主宰していることが大きな理由である。民間機関が主宰する手続においては、不当な執行妨害を排除しきれるかとの懸念が大きく、これまでの関係者の努力が水泡に帰すおそれがある。
3 買受希望者に対する情報公開や債務者保護に問題
民間競売手続においては、いわゆる三点セットが作成されないため、担保物件についての的確な情報が公開されないので、多くの一般人が競売に参加することが難しくなる。これは、安心して多くの買受希望者が参加できる開かれた競売制度を目指してきた不動産執行法制改正の流れに逆行するものである。
しかも、公正な市場価格を参考にした売却価格の下限規制がなくなれば、不当な廉価売却のおそれがある。アメリカでも、サブプライムモーゲージローンによる略奪的貸付(Predatory lending)が社会問題になっており、融資をした金融機関が競売参加者のほとんどいない民間競売手続によって担保物件を廉価で自己競落して転売益を得る行為が問題視されている。自己競落を禁止したとしても、金融機関から担保物件についての情報を得やすい一部のサービサーや不動産業者だけが競売に参加して不当な廉価売却がされ、債務者や連帯保証人が損害を被るおそれがある。この点アメリカでは、担保物件の売却後の不足額を債務者や保証人に請求することができないノンリコースローンが広く普及し、また、州によっては債務者保護のため不足額の請求を制限する法制が導入されているため、担保物件の売却価格が廉価であっても債務者や保証人に影響を与えることはない。しかし、そのような法制ではない我が国では、債務者や保証人に不利益を与えることとなる。なお、規制改革会議において検討されている案は、融資時に予め債務者等が民間競売手続に合意することを条件としているが、融資時における債権者と債務者等との力関係からすれば、債務者等が民間競売手続に同意しない自由はないものといえる。
以上のとおり、民間競売手続については、新たに導入する必要性がなく、また競売手続の公正や透明性の確保、あるいは債務者、保証人の保護などの点において多くの問題があることから、同手続の導入に強く反対するものである。
2008年(平成20年)3月17日
秋田弁護士会
会長 木 元 愼 一
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