秋田弁護士会

「多重債務者相談マニュアル」(案)に対する意見

2007年6月26日 公開
2007(平成19)年6月26日
金融庁総務企画局信用制度参事官室 御中
秋田弁護士会          
会 長  木  元  愼  一

「多重債務者相談マニュアル」(案)に対する意見

 今般,金融庁が公表した「多重債務者相談マニュアル」(案)は,自治体窓口が多重債務者にとって「頼りになる」相談窓口を目指すものとして,全体的によくまとまっているものと高く評価します。しかし,一部不適切と思われる記述が見受けられますので,次のとおり,意見を述べます。

1 ヤミ金融についての記述(12頁)について

 マニュアル案12頁の「ヤミ金融からの借金の利息が109.5%を超えている場合には,貸付けの契約自体が無効になります。」との記述のうち,「109.5%」とあるのは,「年109.5%」と訂正した方が適切です。
 次に「無効になるということは,ヤミ金融は利息の請求を一切できないことになる一方で,元本自体はヤミ金融に返さなければなりません。・・・(略)・・・」との記述は,自治体窓口によっては,ヤミ金融の被害者に対しヤミ金融に返済をするようにとの誤った指導がなされかねず,極めて不適切です。正確には,「そのため,ヤミ金融は,元金と利息のいずれも,貸付けの契約に基づく請求ができないことになります。ヤミ金融が相談者に貸し付けた元本額の方が返済額よりも多い場合には,理屈上は,ヤミ金融は相談者に対しその差額について不当利得に基づく返還請求をすることが可能となる場合もありますが,たいていの場合は,ヤミ金融の行為が極めて悪質であるなどの事情を踏まえて,貸付け自体が公序良俗違反し,ヤミ金融が相談者に交付した元本も不法原因給付にあたると判断されることになり,ヤミ金融に返す必要がないということを相談者に伝えましょう。」と表現を改めるべきでしょう。そして,「ヤミ金融の被害にあった相談者は,苛酷な取立てを現に受けていることが多いので,直ちに警察へ被害届を出した上,弁護士を紹介し,受任してヤミ金融と対応してもらうなどの措置をとるべきです。」との記述を付加すべきです。

2 信用生協との連携についての記述(60頁以下)について

 岩手県信用生協の融資は,弁護士等専門家の関与のもと既存債務を整理し,これを生協からの融資に一本化するおまとめローンと位置づけられます。多重債務を解決する法的手段が限られていた過去においては,生協のおまとめローンは,その地域の多重債務者の救済に一定の貢献があったのかもしれません。
 確かに,多重債務者の法的救済に長年取り組んできた弁護士としての経験を振り返ると,借り換えによって多重債務を一本化したいとのニーズが一部の相談者にあることは否定できません。しかし,多重債務を解決する法的メニューが充実している現在,そのようなニーズが客観的に適切であると考えられる事例を見いだすことは難しいと言わざるを得ません。 
 おまとめローンの利用を希望する相談者には,自己破産や個人再生など裁判所を介した法的解決を回避したいという動機がありますが,弁護士が関与して任意整理を行えば,通常は利息制限法により引き直した残元金に将来の利息を一切付加せずに長期の分割弁済の利益を得ることが可能であると説明すれば,高利の利息をはらって一本化する必要がないことを容易に理解してもらうことができます。わざわざ年9.31%もの高利を生協に払って整理する必然性がないのです。マニュアル案には,複数の貸金業者への返済を管理する手間が大変であるかのような説明もありますが,通常はこれも弁護士が管理をしておりますので,そのような説明に全く説得力を認めることができません。
 それ以上に無視できない弊害は,生協がおまとめローンを実行するにあたっては,連帯保証人をつけるよう要求していることです。多重債務者の法的救済に長年取り組んできた弁護士としての経験を振り返りますと,多重債務者には一般に連帯保証人には迷惑をかけたくないとの気持ちを強く持っている者が多く,連帯保証人が存在する場合には,それだけの理由によって,債務整理が困難になることも少なくありません。場合によっては,前途を悲観するあまり多重債務者だけではなく連帯保証人の自殺や一家心中という悲惨な結果を招いた事例も少なくありません。生協のおまとめローンは連帯保証人を必要としている点において,相談者の身近な人たちに多重債務の被害を拡散させてしまう弊害があります。
 以上のような弊害の多いおまとめローンをあたかも解決方法の一手段として有用なものであるかのように金融庁のマニュアルで紹介されることは不適切ですから,削除すべきだと考えます。

3 相談窓口一覧から全国の貸金業協会消費者相談窓口(84頁)を削除すべきです。

 多重債務者と貸金業協会との立場はどうしても利害が相反してしまい,適切な相談がなされないのではないかと危惧されます。したがって,全国の貸金業協会消費者相談窓口を相談窓口一覧から削除するのが適切だと考えます。
   
以上  

※ 金融庁公表の「多重債務者相談マニュアル」(案)については金融庁HP(https://www.fsa.go.jp/news/18/kinyu/20070611-3.html)ご覧下さい。


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