秋田弁護士会

電話等による架空請求等の犯罪行為を防止するための意見書

2004年9月22日 公開
2004(平成16)年9月22日
衆議院総務委員会
 委員長   佐 田  玄 一 郎 殿
参議院総務委員会
 委員長   景 山  俊 太 郎 殿
総務省
 総務大臣  麻  生  太  郎 殿
社団法人電気通信事業者協会
 会 長   和  田  紀  夫 殿
秋田弁護士会          
会 長  湊    貴 美 男

意   見   書

 当会は,電話等による架空請求等の犯罪行為を防止するために,次のとおり意見を申し上げます。

意 見 の 趣 旨

第1 社団法人電気通信事業者協会に対する意見
1 電話会社(NTT各社,NTTドコモグループ各社,ボーダフォン,KDDIグループ各社,アステル各社など)において,自主的に電話利用契約約款を改正して,①他人の権利を侵害する,②公序良俗に反する,又は,③法令に反する態様による電話利用行為を禁止し,これに違反した者の電話利用契約につき,利用停止や契約解除等の措置をとることができるようにしていただきたい。

2 電話会社において,自主的に電話利用契約約款を改正して,①顧客と電話利用契約を締結する際,さらに,顧客の本人特定事項の真偽に疑いが生じた際には,顧客の氏名・住所・生年月日等(法人の場合は名称・本店等の所在地等)を確認し,②その確認の記録を作成し保存し,③電話会社の承認を得ないで電話端末もしくは電話回線を譲渡転貸することを禁止し,④本人確認に応じない顧客や無断で電話端末もしくは電話回線を譲渡転貸する顧客の電話利用の停止,本人特定事項の虚偽が判明した場合の契約解除をすることができるようにしていただきたい。

3 電話会社及び貴協会において,架空請求等の犯罪行為に利用されている電話番号等の申告窓口を設けて,架空請求等に利用される電話番号に関する通報を受け付け,迅速に当該電話利用契約を利用停止又は契約解除の処置をとることができる体制を整備していただきたい。

4 携帯電話会社において,自主的にプリペイド式携帯電話の新規販売を全面的に禁止していただきたい。また,販売済みのプリペイド式携帯電話については,携帯電話会社において,全部の端末につき現使用者の本人確認の手続をとり,現使用者の確認ができない利用契約については,その利用を停止する措置を取っていただきたい。

第2 総務省に対する意見
1 電話会社(NTT各社,NTTドコモグループ各社,ボーダフォン,KDDIグループ各社,アステル各社など)に対し,第1の1ないし4記載の措置をとるよう指導していただきたい。

2 貴省においても,架空請求等の犯罪行為に利用されている電話番号等の申告窓口を設けて,架空請求等に利用される電話番号に関する通報を受け付け,受け付けた通報内容を集約してこれを電話会社に提供するなどして,電話会社において迅速に当該電話利用契約を利用停止又は契約解除の処置をとることができる体制を整備していただきたい。

第3 衆議院及び参議院に対する意見
 電話会社において,第1の1ないし4記載の措置を適切にとらない場合,電話会社に対し,同様の措置をとることを義務づける立法をしていただきたい。

意 見 の 理 由

1 電話利用犯罪の蔓延とその原因
 近時,はがきやメール等により,有料サイトの未納料金の名目や債権回収業者を装うなどの方法によって架空の債権請求を行い,請求を受ける者の錯誤や困惑等に乗じて支払をさせようとする「架空請求」が蔓延し,各地の自治体などの消費者センターには,大量の相談が殺到している。これらの所為は,詐欺,恐喝,弁護士法違反,債権管理回収業に関する特別措置法違反,郵便法81条2の郵便不正利用罪等の犯罪のいずれかに該当するものであるから,警察等の捜査当局が積極的に取り締まって摘発をし,厳正なる刑事処分によって,根絶すべきことは論を待たない。

 しかし,これら架空請求のはがき等に記載された連絡先はいずれも虚偽の団体名,所在地,担当者であって,複数列挙された電話番号(固定・携帯)だけが犯人へ辿り着く唯一の手がかりであるが,調査をしてみると,幾重にも電話が転送され,行き着く先はいわゆる飛ばしのプリペイド式携帯電話であって,実際に犯罪に悪用して使用した者をつきとめることが困難である場合がほとんどである。犯人は,このような匿名性を悪用して容易に摘発を逃れている。他方,電話会社は,被害者からの申告や警察,消費者センターからの通報を受けても当該電話の利用をなお継続させるために,新たな被害者が問題の電話番号にかけてしまうことを防止できず,犯人の思うままに被害が拡大していくという実態がある。このような問題点は,近時,被害が激増して社会問題化しているオレオレ詐欺等の犯罪においても同様に見られる。

 摘発された事例等によれば,これらの架空請求等を行なう者らの多くは,かつてはヤミ金融をしていた者らが多い。その背景には,昨年の貸金業規制法及び出資法の改正(いわゆるヤミ金融対策法),捜査機関による取り締まりの強化,金融機関による本人確認の厳格化や預貯金口座の利用停止・強制解約措置の対策が一定の成果を上げ,ヤミ金融では利益が上がらなくなったことなどから,ヤミ金融に従事していた者らがより匿名性の高い携帯電話を悪用した架空請求等へ移行したものと考えられる。

 このように,近時の架空請求等の電話利用犯罪の蔓延は,預貯金口座の不正使用対策が進んでいることと比べて,電話の不正使用対策が立ち後れていることが原因であると言わざるを得ない。

2 犯罪利用電話停止等の措置の導入
 日本の携帯電話会社の利用契約約款では,電話の機能のうち,「通話」機能を犯罪に利用することは禁止行為とされていないが,いわゆる「メール」機能を犯罪に利用する行為や公序良俗に反して利用する行為(典型的には迷惑メールの発信)を禁止し,これに違反した場合には,被害者からの申告に基づき,利用停止や契約解除の措置ができるようになっており,これが非常に有効な迷惑メール対策になっている。ヤミ金融に対しても,前述のとおり,法改正や取り締まりの強化と相俟って,ヤミ金融が利用する預貯金口座の利用停止や強制解約の措置が大きな効果を発揮したことは記憶に新しい。

 したがって,電話の「通話」機能を悪用した架空請求等においても,被害者や消費者センター,警察,弁護士等の申告等によって,電話が犯罪など法令等に違反する態様で利用されたことが認められるような場合,迷惑メールの場合と同様に当該電話の利用停止等の措置をすれば,架空請求等を阻止し,これらを根絶する上で絶大な効果が期待できる。

 このような電話の利用停止等の措置は,電気通信事業者が公正かつ合理的な役務を提供する前提として不可欠なものである。他方,このような措置をとることは,憲法上の通信の秘密の保障や電気通信事業法上の役務提供義務に反するものではない。

 通信の一方当事者である被害者等から通信内容を明かした上で犯罪事実が通報されれば,当該通信内容は,秘密性を喪失しているのであるから,電話会社が利用停止や契約解除のために利用する上で何ら守るべき秘密でなくなっている。したがって,通報された内容に基づき電話利用契約者の約款違反を認定して契約解除等をなすことは,通信の秘密の保障に抵触するものではない。また,一方当事者の同意を得て通信内容を明らかにすることができない場合であっても,架空請求が疑われる請求書等の文面など客観的資料をもとにして,当該電話番号が犯罪行為に利用されていることを認定して,利用停止等の措置をとることは十分に可能である。もちろん,不正利用者に対し役務を提供すべき義務が電話会社になく,これが電気通信事業法6条の不当な差別的取扱いに該当しないことは言うまでもない。

 現に電話の犯罪利用を禁止し,犯罪に利用される電話回線について利用停止や契約解除を行う措置は,アメリカの主要な固定電話会社や携帯電話会社の他,イギリス,オーストラリア,ニュージーランドにおけるボーダフォン社の携帯電話利用契約約款の中で携帯電話会社が行える旨規定されているなど,各国において導入されているものである。
 したがって,通信の秘密の保障等は電話利用停止等の措置の導入を躊躇する理由にはならず,架空請求やオレオレ詐欺等による市民被害を防止する上で一刻も早く効果的な方法を導入する必要に迫られていることから,速やかに電気通信事業法や電話利用契約約款を改正して,電話利用停止等の措置を導入すべきである。

3 本人確認の徹底
 プリペイド式携帯電話などは,電話会社ですら現に誰が使用しているのかを全く把握しておらず,これが犯罪に悪用され,犯人を匿う温床となっていることは否定できない事実である。電話利用の匿名性が悪用されることを防ぐためには,少なくとも,電話利用契約の当事者(プリペイド式携帯電話においては現使用者)の本人確認を徹底する必要がある。

 また,先般,サラ金クレジット問題に取り組む著名な弁護士である宇都宮健児弁護士の名義を冒用した事件処理の依頼を勧誘するダイレクトメールが全国各地の多重債務者に発送されたという事件が報道されたが,そのダイレクトメールに記載された電話番号の固定電話は,宇都宮弁護士であることの本人確認がなされないまま宇都宮弁護士名義で設置され,タウンページの広告申込までされていたとのことであり,本人確認が十分になされてない実態は,プリペイド式携帯電話のみならず,一般加入電話においても認められるものである。

 そこで,電話会社に対し,昨年施行された金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律を参考にして,①顧客と電話利用契約を締結する際,さらに,顧客の本人特定事項の真偽に疑いが生じた際には,顧客の氏名・住所・生年月日等(法人の場合は名称・本店等の所在地等)を確認し,②その確認の記録を作成し保存し,③電話会社の承認を得ないで携帯電話端末もしくは電話回線を譲渡転貸することを禁止し,④本人確認に応じない顧客や無断で携帯電話端末もしくは電話回線を譲渡転貸する顧客の電話利用の停止,本人特定事項の虚偽が判明した場合の契約解除をするよう求めるものである。

4 犯罪利用電話に関する情報の収集とその提供
 以上のように電気通信事業法や約款の改正がなされるとしても,犯罪に利用された電話の利用停止等の措置を取るためには,当該電話番号についての情報を収集し,これを即座に電話会社に提供することが必要となる。そのためには,まず,電話会社において申告窓口の設置を義務づけるとともに,貴省及び貴協会において,適当な部署に電話を利用した犯罪に関する通報を受け付ける窓口を設置するべきである。そして,その窓口に被害者,消費者センター,警察,弁護士らからの被害通報がなされた場合には,すみやかに通報を受けた携帯電話の番号等の情報を当該携帯電話会社に提供する体制が取られるべきである。この点は,金融庁が各財務局に預金口座の不正利用に関する情報提供を受け付ける窓口を設け,当該口座が開設されている金融機関及び警察へ情報提供していることが参考になると思われる。

5 プリペイド式携帯電話の廃止
 プリペイド式携帯電話は,契約時における本人確認が不十分であり,端末の所持人を契約者とみなすという約款規定があって,かつ,料金の滞納がありえないので,携帯電話会社において譲受人を特定する動機に乏しく,当の携帯電話会社ですら現在の使用者を特定できないという状態にある。このため,架空請求,ヤミ金融,オレオレ詐欺,出会い系サイトなどによる詐欺,恐喝,暴力金融,売春・買春行為,迷惑メールの発信,さらに薬物密売や誘拐など,ありとあらゆる犯罪のために悪用され,その摘発を困難にしている。

 一方,月払い式携帯電話がこれほど多く普及した現在,プリペイド式携帯電話の社会的有用性そのものに重大な疑問がある。すなわち,プリペイド式携帯電話の有用性は使いすぎを防ぐことにあるが,ほとんどの場合,月払い式携帯電話において通話料金の上限があるプランを利用することにより代替できる。一方,通話料が相当割高であるにもかかわらず,ユーザーがプリペイド式携帯電話を選択する動機は,多くの場合匿名の利用契約が可能であることにあると思われる。

 こうしてみると,プリペイド式携帯電話は,弊害がはなはだしいことに比較して,その見返りとなるような社会的有用性がほとんど認められないので,直ちに新規販売を禁止すべきである。

 しかも,プリペイド式携帯電話の最大の問題点は,前記のとおり,すでに契約者が不明の電話が大量に流通し,犯罪匿名化の温床になってしまっていることである。この問題を解決するには,現に流通しているプリペイド式携帯電話について,各携帯電話会社において,現使用者の確認を全件やり直し,一定期間までにその確認ができない電話回線については,その利用を停止すべきである。これまで,プリペイド式携帯電話の犯罪利用が繰り返し問題とされながら,契約者や使用者の確認すらせずに販売し続けていたことに対する社会的責任を全うするためにも,携帯電話会社がこのような措置を取ることが必要であり,貴省及び貴協会においてこのような方向での積極的な指導,監督がなされるべきである。

6 上記の対策は,まず電話会社により自主的な取り組みによるべきである。しかし,その取り組みが何らなされない,あるいは,適切な措置が講じられない場合には,立法によって,電話会社に対し,上記の対策をとることを義務づけるべきである。
以 上   
法律相談Web予約|秋田弁護士会
一人で悩まず、お気軽にご相談ください
018-896-5599
ご相談のお問い合わせ平日 9 : 30〜16 : 30

秋田弁護士会 法律相談のご予約はこちら

TEL
018-896-5599
インターネット
Web予約
【本文の文字サイズ変更】

標準
特大
※設定は90日間有効です。
×