司法修習生の給費制堅持を求める声明
2003年9月25日 公開
2003年9月25日
秋田弁護士会
会長 虻 川 高 範
政府内では、財務省の財政制度等審議会が、司法修習の給費制の早期廃止を提言し、司法制度改革推進本部の法曹養成検討会でも給費制を廃止し「貸付制への移行」が検討されている。
しかしながら、当会は、司法修習生に対する給費制の廃止に強く反対し、その堅持を求める。
司法修習生への給費制は、司法修習生の生活を保障することによって修習生が修習に専念できるようにしたものであり、現行の司法修習制度の基盤となるものである。
すなわち、法曹養成制度は、単なる職業人の養成ではなく、国民の権利擁護・法の支配の実現にかかわる専門家を養成する制度であって、法曹の養成自体が国や社会の在り方に直接影響を及ぼす事柄であり、それは極めて公共性・公益性が強いものである。しかも、法曹に対しては、国民が基本的人権の擁護・社会正義の実現を期待すると共に、近時にあっては、個人や企業・団体が自立した社会生活を営み円滑な社会活動を行うにあたって、時宜を得た諸種の法的サービスを提供するように要請しており、かような時代に即応した法曹を養成することは、社会にとっては益々重要な課題となる。
司法修習生にあっては、給費制の反面、修習専念義務が課せられており、他の職業に就いて収入を得る途を閉ざされている。したがって、修習専念義務を課したまま給与を支給しないことは合理性を欠き、当然の事ながら、司法修習生の生計の維持を困難とする。しかも、近く導入される法科大学院制度では、司法修習生になる前に2年ないし3年の法科大学院への在学が不可欠とされ、その間に多額の学資や生活資金などの費用負担が加わる。これに、仮に司法修習生の給費制が廃止されるとなれば、法曹になろうとする者の経済的負担は現行制度より一層増大することは明らかである。この経済的な負担の増大がゆえに、前途有為な若者が法曹への志望を断念することになれば、法曹への有用な人材登用は望み得ないことになろう。それは社会、国民にとって大きな損失となる。
給費制に代えて貸与制を採用するという意見もあるが、多額の負債を抱えて新人法曹としての生活をスタートさせることは、好ましくない。
また、給費制を廃止して貸与制に切り替え、任官者には返済を免除する措置を講ずる制度の導入を述べる者がある。しかし、これは法曹の中でも裁判官・検察官志望の者を特別に優遇する措置であって、公平を欠き、平等の原則に違反するだけでなく、弁護士の公的活動の側面を看過するものである。
弁護士は、国選弁護・当番弁護・家庭裁判所の家事調停委員・地方裁判所及び簡易裁判所の民事調停員・弁護士任官・非常勤裁判官(民事調停官・家事調停官)・各種法律相談・法律扶助活動・行政等の各種委員会委員・弁護士会での各種委員会活動・過疎地型公設事務所及び都市型公設事務所への派遣活動等の公共的ないし公益的諸活動を現に担っており、その諸活動の実践により広く社会もその恩恵に浴している。かかる公的活動を継続的に実行するだけの情熱と志の高さが弁護士には求められている。かような弁護士を志望する者がその公益的側面を修養するためにも司法修習生として修習していることを決して忘れるべきではない。
従って、法曹養成の基礎となる司法修習制度に対しては、可能な限り国費が投入されるべきであり、そうすることが時代に即応した能力と識見を備えた法曹を生み出す基盤の確保となる。近時の司法制度改革においても、国は必要な財政上の措置を講じることが義務づけられており(司法制度改革推進法第6条)、政府の財政事情により給費制を廃止することは許されるものではない。
よって、司法修習生の給費制度を今後も堅持するように強く求めるものである。
以上
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