秋田弁護士会 > 秋田弁護士会とは > 会長声明・決議・意見書 > 国旗の損壊等の処罰に関する法律の制定に抗議する会長声明

国旗の損壊等の処罰に関する法律の制定に抗議する会長声明

会長声明・決議・意見書

 2026年7月17日、「国旗の損壊等の処罰に関する法律」(以下「本法律」という。)が、参議院で可決され、成立した。
 本法律は、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者」を2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金に処するものである。
 しかしながら、本法律は、次のとおり憲法が保障する国民の権利を侵害するおそれがあるため、当会は、本法律の制定に抗議する。

 本法律の立法趣旨は、国旗を大切に思う国民感情であると説明されている。しかし、日の丸は、軍国主義の象徴として用いられた歴史的経緯があり、国民の間には様々な感情や評価が存在しうる。国旗を大切に思うことも、思わないことも、個人の内心の自由に属するものである。国旗を大切に思うことを刑罰により強制しかねない本法律は、憲法第19条が保障する思想及び良心の自由を制約しうるものである。

 刑罰法規は、罪刑法定主義(憲法第31条)により、国民が自らの行為が処罰対象となるかを事前に予測できるよう明確でなければならない。しかし、本法律の「著しく不快又は嫌悪の情」という要件は、人によって受け止め方が異なり、極めて主観的で曖昧な概念である。「行為の外形や客観的な事情を総合的に勘案する」と規定されてはいるものの、表現行為としての加工と、刑罰の対象となる「損壊」「除去」「汚損」との境界線は不明確であって、警察や検察などの捜査機関による恣意的な判断と介入を許すことになりうる。

 国旗損壊等の行為は、時の政権や国家体制に対する抗議など、政治的表現としてなされることがある。国旗を用いて政府を批判する行為は、民主主義社会において最大限尊重されるべき政治的表現の自由そのものである。本法律は、批判的な表現活動のみを刑罰の対象としうるものであり、少数意見を排除し、ひいては社会全体の表現活動に深刻な萎縮効果をもたらしうるものであって、憲法第21条が保障する表現の自由を侵害するおそれがある。
 表現の受け手においては様々な受け止め方がありうるところ、現代社会において、市民の表現行為は、インターネットやSNS上で気軽に広くなされており、即時かつ広汎に伝達されるものである。要件の曖昧さが、見ず知らずの誰かを不快にさせたら刑罰の対象になるかもしれないという不安を生じさせ、市民は自己検閲を強いられる。本法律の制定により、市民の表現行為が強く萎縮してしまう危険性は、見過ごすことができない。

 1999年の「国旗及び国歌に関する法律」制定時、政府は「国旗の損壊等を新たに刑罰の対象とすることは考えていない」と答弁したが、今日に至るまで、国旗の損壊が増加して社会秩序が脅かされているような事情は見当たらず、立法事実は存在しない。また、本法律の提案理由として、刑法第92条の外国国章損壊罪が存在することとの不均衡を是正することが挙げられているが、同罪は「日本と外国との円滑な外交関係」という国家間の利益を保護法益としており、本法律とは守るべき法益が全く異なるため、比較されるべきものではない。

 以上のとおり、本法律は、憲法第19条、第21条、第31条に違反するおそれが極めて高いばかりか、そもそも立法の必要性が認められないものである。
よって、当会は、本法律の制定に抗議する。

2026(令和8)年7月24日
秋田弁護士会
会長 山 本 尚 子